生活者の選択の起点は、すでに検索や公式サイトからAIとの対話へと移りつつある。アクセンチュア ソング シニア・マネジャー 石井達郎氏は、2026年9月2日開催の記者向け勉強会で「エージェンティックコマースが生活者のブランド選択のプロセスを根本から変えつつある」と指摘した。AIエージェントが商品の比較・提案から決済、アフターフォローまでを担うようになれば、企業が長年築いてきたブランドロイヤリティは一瞬で揺らぎかねない。
そうした変化は、生活者の意識にも表れ始めている。同社の調査では、買い物の代行なら「親友よりもパーソナライズされたAIエージェントを信頼する」との回答が75%に達した。AIに購買の判断を委ねる動きは、もはや例外ではなくなりつつある。
石井氏はこの変化の本質を「購買の意思決定をする生活者の定義そのものが変わる」と表現する。人の判断にAIエージェントが寄り添うことで、「感情や文脈で判断するヒト」と「スペックやロジックで判断するAI」が混ざり合った存在が新たな顧客像になるという。
そのインパクトは小さくない。同調査では、決まったブランドを選び続けてきた「ロイヤルカスタマー」に限っても、34%が「AIがより条件に合う選択肢を見つけた場合、乗り換えを容認する」と答えた。石井氏は「対応せずに放置すればシェアが落ちていく」と警鐘を鳴らす。
では、AIに「選ばれ続ける」ために企業は何をすべきか。石井氏は、企業に求められる変革を大きく3つに整理した。
第一に、汎用的な「AIエージェント」顧客接点との共存だ。ChatGPTやGeminiのような多くの人が日常的に使うAIに、企業は正しい情報を届けられる状態を整える必要がある。商品データやそれに付随するデータを標準化・資産化し、AIが認識・参照しやすい構造へ最適化する「AIO(AI最適化)」への対応に加え、汎用AI経由の購買が自社ECにつながり決済まで完了できるAI接続型のコマース基盤の整備が欠かせない。
第二に、ブランド独自の「オウンドエージェント」を競争力にする取り組みだ。自社のナレッジやデータを学習させた独自エージェントを構築し、商品探しから代理購買サポート、購入後の体験、店舗を含めたマルチ体験までを支える動きが広がる。石井氏は「一回性のものではなく、育てていくことが必要」と述べ、適した人材の確保や体制整備といった課題もともなうと指摘した。
そして第三が、これらを継続的に回すオペレーション・体制の構築である。業務プロセスそのものの変革が、現在クライアントから寄せられる相談の大きな論点になっているという。
ただし、どこに力点を置くかは企業の性質で大きく異なる。石井氏は、商品ライフサイクルの早い日常消費財は汎用エージェントの中で選ばれる方向に、情報収集が重視される高額商品は独自エージェントでの情報提供に向かうと説明。その具体的な違いを次の事例によって解説した。
消費財メーカー:汎用AIへの対応でシェア損失を回避
グローバルに複数事業・ブランドを展開する消費財メーカーの事例は、汎用的なAIエージェントへの対応(前述のA)を検討したもの。認知から購買までの生活者行動の変化に強い危機感を持つ同社について、アクセンチュアが影響を試算した結果、AIO未対応の場合にシェア損失が最大12%に達する可能性が判明した。この結果はCXOレベルでも重要な経営課題と認識され、現在は優先市場・ブランドからAIO対応を開始。商品情報の整備やブランド関連コンテンツの拡充を、AIが認識しやすい構造を意識して進めている。
石井氏は、単なるスペック登録では不十分だと強調する。たとえば「サーフィンの後に飲みたい、低カロリーのビール」といった文脈で相談されたとき、商品がその文脈を拾える情報を持っていなければ、推奨候補に上がってこない。生活者が求める利用シーンや想定ターゲット像まで踏み込んで商品情報を充実させ、AIがどう読み込み紹介したかを定点的にアップデートしていく必要がある。
Radisson Hotel Group:ChatGPT上でホテル検索を完結
ホテル業界からは、Radisson Hotel Groupの事例が示された。旅行計画の起点が検索や公式サイトからAIとの対話へ移る中、同社はアクセンチュアと協業し、ChatGPT上で使えるホテル検索アプリを提供開始した。プロンプト冒頭に「@RadissonHotels」と入力すると、100ヵ国・1,000軒以上の施設から条件に合う候補を、空室状況や料金、地図とともに提示。予約はRadisson公式サイトへ接続する。取り組みではまず、コンテンツ・在庫・料金・予約情報を構造化・検証してAI検索に適した形へ最適化する「AI Merchant Center(MCP)」を導入。その上で自然言語での検索・比較体験を設計し、既存システムとの直接連携でリアルタイムの情報を提供する仕組みとした。
JINS:オウンドエージェントで接客と機会損失の課題を解決
ブランド独自のオウンドエージェント(前述のB)の事例が、メガネのJINSだ。メガネ選びは正解が分からないことが多い一方、繁忙時に店舗スタッフがつかまらず機会損失が生じ、医療機器を扱うためスタッフ採用のハードルも高い、という課題があった。
同社は、店舗スタッフ並みの知識・会話力でメガネの買い方やレンズ・フレーム提案までをサポートするAIを構築。複雑なレンズ×フレームの組み合わせ判定や画像解析による類似フレーム提案に対応し、日本語・英語・簡体字・繁体字の多言語で海外客も逃さない設計とした。利用者アンケートでは疑問解消率が90%超、購入意向の表面化率が15%超という成果が出ている。接客AIが疑問を解消した状態で店舗スタッフに引き継ぐことで現場の生産性向上にも寄与し、今後は店舗からECへ展開するOMOビジネス成長も見据える。
トレンドで終わらせず「仕組み」に落とし込めるか
石井氏が最後に強調したのは、こうした対応を一過性のトレンドで終わらせないことの重要性だ。人とAIエージェントが一体になった新しい生活者に対し、さまざまな情報源からAIが情報を抽出していく状況を診断・分析し、施策を立案する。その施策を実行する段階で、コンテンツをAIが読み込みやすい構造に整備し、SNSの反応やサポートログ、商品情報を集約して、「構造化された商品データベース」──すなわちブランドを体現するデータへと磨き上げる仕組みと体制が必要になる。エージェンティックコマースへの対応は、こうしたサイクルを企業活動に組み込めるかどうかにかかっている。
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AIdiver編集部(エーアイダイバーヘンシュウブ)
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