2026年6月、メルカリのAI推進を率いてきた前CTO 木村俊也氏が、執行役員 CHRO 兼 CAIOに就任した。開発畑から人事領域へと、思い切った決断だ。着々とAIネイティブ化を進めてきた同社だが、現場の実態と制度のずれが発生し始めたという。AIdiver特命副編集長 野口竜司氏が、メルカリが描く組織の理想図を訊く。
“実験”から学んだAIネイティブ化の本質
AIdiver 特命副編集長 野口竜司氏(以下、野口):CAIOとCHROを兼任する新体制に大きく変わられましたが、以前と比べて何が違いますか。これまでも、AI推進の取り組みをされてきましたよね。
メルカリ CHRO 兼 CAIO木村俊也氏(以下、木村):そうですね。CTO時代にAIタスクフォースを発足させ、33領域でAIエージェント化を進めてきました。Cursorからスタートし、ChatGPT、Claude、Notion AIと、今では全社のAI活用率は100%です。すでに日々の業務にAIが浸透していることは事実ですし、それぞれのチームで簡単なAIエージェントを作るカルチャーも生まれています。
ただ、それだけでは足りないのではないか。私たちが宣言したAIネイティブカンパニーには、たどり着けていないのではないか。そんな仮説をもっていました。
そこで始めた活動が、AIを軸に従来よりも少ない人数でプロジェクトを進める「AI Pods」です。プロダクト開発を中心に、完全にAI前提で働かざるを得ない状況を実験的に作ってみよう。そう思ったのです。
実際にやってみて学んだのは、AIネイティブ化の本質が「働き方」や「組織構造の変革」であることです。単にAIツールを全社導入したり、その活用の戦略を立てたりすることにとどまってはならない。以前はCTOとして取り組みの提案や実験を行ってきましたが、CHROに就任することで本格的な組織変革を担えると考えました。
野口:なるほど。仮にCHROでなければ、できないことはあると思いますか。CTOのままではフラストレーションがたまるというか。
木村:フラストレーションというよりも、CHROになったほうが速く組織の形を変えられる点でメリットが大きいです。
AI Podsを起点に、当社の大部分を占めるエンジニアやPdMの役割や働き方が変わって、職種の壁を越える “越境”がかなり起こっています。しかし、現場ではものすごいスピードで変化が起こっているにもかかわらず、それがなかなか人事に届かないのです。
越境と一言でいっても2種類あります。最初は、今までの自分の役割を軸に他のタスクに染み出すケースから始まりました。エンジニアであれば、バックエンドエンジニア、モバイルエンジニア、Webエンジニアを1人がすべて行ってしまう。
そして徐々に、今までの役割とはまったく別の仕事をする人も現れ始めました。エンジニアがデザインもQAも、プロジェクトマネジメントまで一貫して行う形です。こうした越境の動きが、私が想定していたよりも早く発生した。この事実に驚きました。
その変化が速すぎて、評価システムや採用に向けたジョブディスクリプションの準備が追い付かないのです。人事システムが後手に回ってしまうと、適切に社員の評価も採用も教育もできません。会社の体制が壊れかねないと危機感を覚えました。
AI Podsのような実験を主導して、現場で起こっている良いことも悪いことも見てきた人材がCHROになったほうが、人事システムの優先順位をすばやく決めていけます。AI前提の組織図を描こうにも、バックグラウンドがなければ想像することが難しいですから。
当然ながら、私の専門領域は人事ではないためハードルもあります。労務的なルールや労働基準法、また何が社員にとって不利益になるのかといった考え方まではカバーできていません。そのため、これまでの人事領域のリーダーたちと相談しながら取り組みを進めています。
とはいえ、今の我々の変化スピードを考えると、こうしたハードルがあっても、メリットの部分をとったほうが良いと感じたのです。
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藤井有生(AIdiver編集部)(フジイ ユウキ)
1997年、香川県高松市生まれ。上智大学文学部新聞学科を卒業。人材会社でインハウスのPMをしながら映画記事の執筆なども経験し、2022年10月に翔泳社に入社。ウェブマガジン「ECzine」編集部を経て、「AIdiver」編集部へ。日系企業におけるAI活用の最前線、AI×ビジネスのトレンドを追う。
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