意外にも難しいコーポレート部門の越境 なぜか?
野口:想像より早く越境が始まってしまった、と。新しい試みにもかかわらずスムーズに進んでいるように見えますが、現場で摩擦や抵抗はなかったのでしょうか。
木村:最初は、実験をしてもらう人たちが嫌がるのではないかと不安もありました。エンジニアがPdMの仕事までやらなければならないとなると、不満が出るかもしれない。また、AI Podsのような実験をいきなり始めると、開発業務が回らなくなってしまい事故につながるとも思い、まずはかなり数を絞って10程度の案件からスタートしました。もちろん、AIネイティブ組織のビジョンも改めて伝えました。
ところが、ふたを開けて見ると、想像とはまったく逆の反応で。社内の各所から「私たちもやりたい」と声が上がりました。まだ仕組みが出来上がっていない中で、現場の勢いが強すぎて、案件を増やすのを途中で止めたほどです。現場の反応から、このやり方自体はかなり理にかなっているのだと実感しました。
一方で、仕組みの面で課題が見つかりました。エンジニア内ではかなり越境が進んだものの、開発における上流・中流・下流のうち、上流や下流がボトルネックになってしまったのです。
すべての流れが最適化されなければ、プロダクトリリースのタイミングは早まりません。中流の設計やプログラミングといった作業は速くなっても、その前の企画作りや施策の提案に時間がかかったままでは、エンジニアが待ちの状態となります。そこで、PdMもAIネイティブな体制に変え、企画の検討に集中できる環境構築を進めました。
では、次に何が課題となるか。セキュリティレビュー、コンプライアンスチェック、PR施策、カスタマーサポートなど、プロダクトをリリースする前の最終確認や仕上げ作業です。
たとえば、コンプライアンスチェックなどの対応は、今までプロジェクトマネージャーが進めていました。そのやり取りが十分にAIエージェント化されていればいいのですが、やはりそこはまだ人間と人間のコミュニケーションです。お互いがAI前提のスピードに慣れているわけではありません。相談の内容をうまく伝えられなかったり、相談した結果、違う角度で回答が返ってきたりと、さまざまな摩擦が発生しました。その点で、下流部分には改善の余地が残されている状態です。
エンジニアに限らず、マーケターの業務の越境もボトムアップで生まれていますが、コーポレート業務となると意外と難しいのです。法務や財務など、それぞれの専門性が非常に強い。私自身がCHROという立場を生かして、AIを軸にした働き方や組織の形をコーポレート側にも提示していきたいと思っています。そして、組織が壊れないレベルで実験を始めたい。これは、今年の年末にかけての重要課題だと認識しています。
野口:そうした、業務を越境する“横の拡張”もあれば、役割は変わらなくても一人で100人分の仕事ができるようになる“縦の拡張”の可能性もありますよね。
木村:たしかに、コーポレート領域はどちらかといえば縦の拡張になるでしょう。ただ、私は横の拡張を諦めたくない。たとえば、私は今人事領域にいますが、その中でもHRBP(Human Resource Business Partner)や労務システムを作る担当者らが影響し合って仕事をしていけば、リアルな現場を理解しながら労務規定に反映することが可能なはずです。
そう考えると、人事内での越境は色々実験できますよね。遠いように見える2つの業務でも、実は一人が対応したほうが効率が良いなど、ほかにも横の拡張ができると信じて、取り組みを進めようとしています。
