FDEの肝は自社テクノロジーへの還元 独自AIモデルの育成にも注力
──昨今「AX(AIトランスフォーメーション)」とよくいわれるが、富士通ではどのように定義しているのか。
富士通 高橋美波氏(以下、高橋):AIの適用率ではなく、高度な意思決定にAIを活用しているかを重視している。たとえば、M&Aをはじめ事業のポートフォリオに関する戦略において、AIの意見も取り入れながら決断できるような状態、もしくは、将来的な事業成長を見据えたAI活用、ビジネスモデル自体の変革などがAXだと考えている。
当社であれば、AIを活用してシステムの設計から実装、テストまでを一気通貫で行える体制作りはAXそのもの。人間が監督しながら、すべてのプロセスをAIに任せるのが理想だ。プロジェクトによっては、すでに全プロセスにAIを組み込んでいる。一方で、クライアントの意向でAIの適用を避けるケースがまだあるのも事実。AIを適用する準備は整っているが、現状はプロジェクトに応じて使い分けている。
日本企業でも先進的な取り組みは多く、コールセンターの暗黙知をAIに学習させて高度な接客ができる仕組みを作っている例もある。たしかにPoCにとどまっているケースもあるが、全体的に遅れているわけではなく、かなりAXが進んでいる日本企業も少なくない。
当社グループも、カスタマーゼロとして約10万人の従業員にClaudeやGPTを導入し、積極的に実践経験を積める環境を整えた。トップの時田(隆仁氏)自身がコミットしていることも大きい。結局は、AIを中核に据えて全プロセスを変える覚悟を決められるかが重要だ。
──今やFDE(Forward Deployed Engineer)が切っても切り離せない話題となっているが、どう捉えているか。
高橋:我々は、Palantirと戦略的パートナーシップを締結した6年前から、Palantirと一緒にFDEの育成に取り組んできた。現時点で、バックエンドのエンジニアを含めて、数百名規模のFDEが社内に在籍している。他社と比較してもすでに数は多い。Palantirの知見に加えて、他社のフロンティアAIモデルを熟知したFDEを積極的に育成していきたい。
そもそもFDEは、Palantirが提唱し始めたもの。戦地で部隊をあえて最前線に配置する「前方展開」という言葉が由来である。ミッションクリティカルな現場の最前線で迅速に成果を生み出し、リスクや損失を抑えるという発想だ。つまり、FDEはクライアントの課題に対して迅速に試作を構築し、成果にコミットする役割を担う。従来のSIerは、まずクライアントの要件を確認してから具体的な開発作業に入る流れだった。これに対してFDEは、プロトタイピングを行いながら、数週間~数ヵ月でアウトプットを生み出さなければならない。
同時に、もう1つのFDEの重要な任務が自社テクノロジーへの還元だ。クライアントのユースケースや要望を、自社製品の開発や改善へつなげ、自社テクノロジーの進化にも生かさなければならない。当社では、FDEとして活動しているメンバーが、当社の研究所や商品部門にフィードバックを行い、富士通が提供するものの性能向上を促すことで、お客様にさらなる価値を届けることができる。
──FDE育成のために、どのようなフローが組まれているのか。
高橋:実際にPalantirを活用するクライアントのプロジェクトに当社メンバーが入り込んで、FDEの手法を学んでいく。テクノロジーのキャッチアップだけでなく、クライアントの課題を迅速にどう解決していくかを実践するプログラムだ。Palantirを活用してFDEアプローチを推進するための認定資格なども整備してきた。PalantirビジネスのFDEとなる「上級認定FDE」合格者の割合は2割程度と、難易度は高い。その知見をベースにさらにFDEを拡大していこうとしている。
──SIerのほか、コンサルティング会社でもFDEを配備し始めている。
高橋:もちろん、考え方として浸透していくのは良いことだが、得られた知見を自社の技術や製品に還元する仕組みがないケースも多い。せっかく得た多様な知見を、反映する場所がないという点で、目指している体制や姿が当社とは少し異なる。当社は「Takane」「Kozuchi」のように独自のAIモデルやAIプラットフォームを有しており、それらにFDEの経験値をフィードバックしている。FDEの拡大が、自社テクノロジーそのものを育てることにもなり、お客様への提供価値を最大化できると信じている。
