号令する人から、自ら創る人へ。AIリーダーが起こす三つの変化
「AIを活用せよ」と経営が旗を振る。だが実装は現場や外部に任せきりで、働き方も意思決定も変わらない。そんな歯がゆさを抱えるAX・DX推進担当者は少なくないだろう。本講演に登壇した2人は、この構図を自ら覆してきた実践者である。
野口竜司氏はAIX partner代表として事業会社のAI戦略を多数支援しながら、自らコードもプロンプトも書く実践派で、AIdiverの特命副編集長も務める。木田浩理氏はデータサイエンティスト出身の実務家で、著書『AIを味方につける仕事術 AI活用のもやもやを現場の力に翻訳する』(インプレス、2026年6月)でも知られる。積水ハウス イノベーション&コミュニケーション(以下、積水ハウス イノコム)のCMO兼CDDOという立場にありながら、自ら手を動かし続けている。
野口氏はまず、「AIリーダー」の捉え方から話を始めた。AIを使いこなして業務を良くする段階にとどまらず、事業に密接に関わるものをAIで自ら作り出す。さらに経営者と対話し、事業部門を巻き込みながら変革を進める。そこまで踏み込む人こそがAIリーダーだという。キーワードは「号令する人から、自ら創る人へ」だ。
AIX partner代表/AIdiver特命副編集長 野口竜司氏
その土台にあるのが「AIものづくり」という概念だ。AIによって、広い意味でさまざまなものを形にできるようになった。特別な知識やスキルがなくても、プロトタイプレベルなら自分の手で作れる。この変化が、リーダーのあり方を根本から変えつつある。

リーダーが自ら創ると、組織には三つの変化が起こる。企画とプロトタイプの間の伝言ゲームが消える「距離」、資料ではなくプロトタイプで議論できる「速度」、そしてビジネスと技術を自ら往復する翻訳者が組織の要になる「役割」だ。これは一部の天才の話ではない。AIコーディングによって、非エンジニアの経営層でも実際にできるようになった。
木田氏の実感も同じだ。従来のリーダーは部下に指示を出し、見積もり、要件定義と長いプロセスを経て、ようやく形になるのを待つしかなかった。
「AIを活用すれば、事業仮説を形にする速度が格段に上がる。リーダーが『こんな感じで』というイメージをそのまま部下に示せるので、組織の意思決定はすごく速くなる。議論もその時点からスタートできる。今までと全然違う感じがしますよ」(木田氏)
かつてBIツールのダッシュボードで、数字をどう意思決定に変えるかに苦心してきた木田氏は、今ではWebサイトもアプリも自分たちで作れてしまうと語る。
「今まで外部にお願いしてきたものを、全部自分でできるのは大きい。昔は1ヵ月、2ヵ月単位で考えていたものが、今は1時間、2時間の世界になっている。リーダーがそういうマインドかどうかだけで、企業の差はすごくついてくると思うんですよね」(木田氏)
資料の見た目より、前に進むかどうか。仕事っぽかったことの無価値化
変化はものづくりのスピードにとどまらず、仕事の中身そのものに及ぶ。モデレーターの押久保剛(翔泳社・AIdiver編集長)が「AIで資料を作ると手抜きと受け取られる空気も根強い」と水を向けると、木田氏は言い切った。
積水ハウス イノベーション&コミュニケーション CMO兼CDDO 木田浩理氏
「私の組織では、資料をきれいに作るとか、AIが作ったかどうかは、正直重視していません。組織の生産性が上がり、仕事が前に進み、スピードも上がるなら、それに越したことはないじゃないですか。いいものはどんどん採用するというマインドでいい」(木田氏)
ビジネスと技術の間に分断を作らず、両者をつないで組織に埋め込む。それが木田氏の言う「トランスレーター」の役割だ。
野口氏は、この変化の本質を「仕事っぽかったことの無価値化」と表現する。
「仕様書を作って、外部に発注して、レビューして、納入する。これまで仕事っぽかったことが、意思決定者自らが作れるようになったことで、どんどんそうじゃなくなる。企業の付加価値を作るうえで、本質的な価値はどこに集約するのかが浮き彫りになっていく時代です」(野口氏)
木田氏も「いかに『ぽかった』ことが多かったか」と応じる。かつて「パワポ職人」という言葉もあったが、木田氏自身この数ヵ月、プレゼン資料を自分で触っていないという。フォントやテキストボックスを整える時間が丸ごと不要になり、「それでいいんだ、とみんなが気づいたのが大きい」と振り返った。
さらに野口氏は、経営層やマネージャー層がAIエージェントを構築し、業務として組織に恒久的に埋め込むことも、すでにできる状態だと指摘する。「創る」対象は、資料やアプリからAIエージェント組織そのものへ広がっている。
