改革のキーパーソンは“若手” 新たな人事制度をどう作る?
野口:職種や業務の境目が曖昧になると、人事評価が難しいのではないでしょうか。
木村:正直にいえば、まさに議論をつづけているところです。しかし、これも2026年末にかけてかためていきたい。すでに越境は始まっているため、まずは当社がもっている等級制度やジョブディスクリプションのアップデートをしていかなければなりません。
ここで意識する必要があるのは、期待値を調整しなければならないということ。「求められるレベルがここまで上がる」と言語化して社員に伝えたいのですが、そもそもAIのポテンシャルを生かしきったときに1人が出す成果が想像できていないのです。
「ここまでの成果を出してほしい」とこちらから基準を設けてしまうと、社員がそれを超えることができなくなるかもしれません。どのような表現にするのかは、今後考えていくべき点ですね。
人事評価は、等級制度や我々の期待値を整理したうえで、今までよりも柔軟な形にしたいと思っています。そうでなければ、社員の成果に対して期待した報酬が支払われなくなってしまうからです。
野口:人事評価だけでなく、人材育成の方針も変わっていきますよね。世間では、AIが使える中でジュニア層をどう育てるか模索している企業も多いように見えます。
木村:私は、AI時代の若手に非常に期待しています。若手もすごく大事にしたい。私たちの常識が覆された働き方を当たり前として、AIネイティブに育つ彼らなりのアイデアがあるはずです。
たとえば当社では、AIを活用した仕様駆動開発であるAgent Specドリブン開発(Agent-Spec Driven Development/ASDD)の提案を、新卒2年目に任せています。リスクはあるため、ベテラン社員も支援はしますが、若手に任せてみると期待以上にスピードが上がったのです。つまり、彼らにチャンスを与えたほうが、今までの働き方を抜本的に見直せるのではないでしょうか。
野口:人事領域の考え方も含めて、メルカリのAXのスピードはかなり速いですね。
木村:そうかもしれませんが、実際には企業によってベストプラクティスは異なります。企業によって人数も違えば、社員の性質やそれぞれが持っているスキルもまったく違うなど、組織のあり方には変数が非常に多い。業界によっても、最適な組織の形は異なるはずです。当社はものづくりを生業としているからこそ、ものづくりを軸としたAIエージェント化を進めてきました。
ただ、ビジョンを示すことは共通して必要でしょう。私たちは、当初からヒューマン・イン・ザ・ループを目指して、AIエージェントを作ってきました。AIエージェントのアウトプットを必ず人間がチェックする。そのサイクルをなるべく高速に回していく。そして徐々にAIエージェントに任せられる領域を増やしていくと、今度はヒューマン・オン・ザ・ループに変化していく。そうすると、AIエージェントに任せられる仕事はまた増えていく。
こうしたビジョンを、1年前からかなり示してきたのです。その分、社員からの理解もあります。CEOを含めた全社員が、勢いをもってこの変革を進めてきました。それがうまくいっている大きな要因の一つだと感じています。
もちろん、当社以外にも同じように変革を進めている企業は多くあります。着地の仕方がそれぞれ違うだけです。仮にあまりうまく進められていないのだとしたら、まだ経営が変われていないのだと思います。もし経営陣でAIに詳しくない方がいるのであれば、そのすぐ横に社内で1番AIに詳しい社員をつけて、毎日話してAIのポテンシャルを理解してもらうこと。そこから始めるべきです。

