ツール配布で終わる会社、「会社のOS」を変える会社
押久保:業務効率化どまりで終わる企業と、AIを資本として積み上げていける企業。その分かれ目はどこにあるのでしょうか。
柴山:有償の生成AIを社員に配って「これで業務を効率化しなさい、高度化しなさい」という仕組みだけでは、いわゆる効率化どまりになりやすい。個人が処理できる量が倍になったというのは、下手をすると業務のサイロ化(部門や個人ごとに情報が分断されること)が倍になった可能性すらある。アウトプットはバラバラで、会社としての大規模な学習ループにもつながらない。「5時間の作業が2時間になりました」で終わってしまいがちです。
そうではなく、AIエージェントありきで会社のワークフローやルールをつくり替える。会社の業務基盤そのもの、いわば「会社のOS」をエージェンティックに変えていく仕掛けを、経営や専門部署がつくらないと、会社の構造自体は変わりません。
押久保:何から着手すべきでしょうか。
柴山:究極的には、経営層が「会社自体をエージェンティックなOSに変えるとき、自分たちは何をすべきか」から議論を始めるべきです。これまでの生成AI活用は、ツールを渡して現場が活用し、アンバサダーを育ててスキルを広げるやり方でした。それ自体を否定はしませんが、基本的には個人のタスクにしか効きません。
2026年に入って、優秀なリーズニングモデル(推論能力の高いAIモデル)、スキルやコネクタでエージェントが稼働する仕組み、それらをオーケストレーションする実行環境と、材料がそろいました。このタイミングで会社の基盤をどう変えるかは、経営の仕事そのものです。個人ではできません。

CAIO人事への警鐘──見るべきレイヤーも変わった
押久保:CAIO(Chief AI Officer)を置く企業も増えてきました。
柴山:その流れ自体はよいことだと思いますが、個人的に警鐘を鳴らしたいこともあります。「ツール」という視点でのAIは、テクニカルなエンジニアリングの素養が少なくても対応できたので、比較的ビジネスサイドの方でもCAIOの役割をこなせたと思います。一方で、その状況が成り立っていたのは、AIをツールとして捉えていたからに過ぎないと、私は思っています。
会社のOSとしてのエージェント基盤づくりは、適切なモデル選定やトークン調達の設計、そしてシステムとしての駆動設計や学習ループ設計そのもので、テクニカルなエンジニアリングの領域の知識がないと正しい判断が難しいと感じます。つまり、技術を熟知した人間が設計しないといけない状態に戻ってきていて、CIOやCTOがもつケイパビリティに、CAIOのケイパビリティも近づいてきています。
押久保:経営層が自らAIに触れる動きも増えています。
柴山:まず触ってみることは、すごくいい動きです。ただ、経営層が自らバイブコーディングをやってみた、タスクをこなすエージェントを作ってみた、というのは、まだ生成AIの使い方の延長線上です。素晴らしいことですが、その先にあるAIエージェントによる業務基盤の変革は、エンジニアリングの民主化とは別次元にある。そのことを認識しながら触ることが大事だと思います。
押久保:他社をベンチマークするとき、経営層はどこを見ればよいのでしょうか。
柴山:業務基盤の情報はあまり外には出てこないので、まずはプラットフォーマーを見ることになりますが、見るべきレイヤーを変えないといけません。OpenAIならChatGPTだけではなくエンタープライズ向けエージェント基盤の「OpenAI Frontier」を、GoogleならGeminiのアプリだけではなく「Gemini Enterprise Agent Platform」を見る。個人向けの機能がどう進化するかではなく、「エンタープライズの中のエージェンティック基盤とは何か」というレイヤーの視点です。
タスク型のツールしか見ていないのか、会社のOS側まで見て設計しているのか。この違いが今後の意思決定に大きく影響してくるのではないでしょうか。
