避けられない資金の壁 鍵を握るのは「海外投資家の誘致」
藤木氏は「日本の金融機関は、データセンターなどへの投資に対して安定した資金を継続的に供給できる仕組みを確立している」と話す。いわゆるプロジェクトファイナンスだ。インフラ構築など大型プロジェクトから得られる利益を返済原資とし、資金を調達する手法を指す。これにより、同行は日本のAIインフラの発展に寄与する考えだ。
しかし、同時に日本特有の検討すべき点があるという。大きくは次の2点だ。
土地の制約と分散
日本において、データセンターに適した土地が大量にあるわけではない。また、自然災害などのリスクも考慮する必要がある。加えて、都市に集中しがちなデータセンターをいかに地方に分散させるかは、民間だけで解決するのが難しい。官民の適切なリスク共有に基づいて、長期的な資金を捻出していく必要がある。
建設コストの上昇
藤木氏の感覚で、データセンターやデジタルインフラの建設コストが従来の1.5~2倍ほどに増加している。多額の資金を民間でどう捻出するかは難しい問いである。
このような課題を乗り越える上で鍵を握るのが「海外投資家の誘致」だという。「彼らを集めるための仕組みやリターンを生み出していきたい」と、藤木氏は展望を述べた。このグローバルな視点が日本の強みになる。
「金融マーケットの発展が先行する米国では、データセンターなどのデジタルインフラに対する長期的かつ安定的なファイナンス技術や仕組みが既に発達している。私たちは米国で今起こっている事象がどう日本に入ってくるのかあらかじめ予測でき、それに対して準備できる」(藤木氏)
さらに同氏はAIに欠かせない「電力」にも目を向ける。今後は再生可能エネルギーの活用が中心となっていくと考えられるが、風力や太陽光など常に一定した発電が可能なわけではない。そのため、蓄電池を併用するなどの取り組みが求められる。これに対して三菱UFJ銀行は、サプライチェーン、そしてバリューチェーン一体で資金面での支援をしていく方針を示した。
大きなテーマ「AIの電力消費」 村田製作所はどう挑む?
AIインフラ構築の重要な側面である電力については、村田製作所の須知氏が、日本の製造業が果たすべき役割を語った。特に「いかに電力の低消費化を実現するかは、あらゆる階層で重要なテーマだ」と話す。
「さまざまな場面で高性能な部品が求められるようになる。もちろん材料、生産設備も重要で『産業の裾野』が要だ。日本はそういった産業が集積している点が特徴といえる」(須知氏)
海外にも拠点を構えている同社は、グローバルな知見も蓄積してきた。それを踏まえた今後3年の予測として「やはり土地の制約がハードルとなるだろう」と須知氏。ただし、これも突き詰めれば「いかに効率よく電力消費を下げ、パフォーマンスを上げられるか」が問われるという。データセンターの集中により、地域の電力供給能力の限界などにつながるためだと考えられる。同氏は「最先端の部品を提供することで貢献できる」と語った。
一方で、技術的な面が進歩しても「価値への転換までにタイムラグが発生する」とも須知氏は予測する。大規模なリソースを消費するAIインフラの構築を一般消費者が受け入れる上でも、魅力的なユースケースの創出は不可欠だ。
