LLM時代の変化──「認識系AIは本質的に変わっていない」
──生成AIやLLMの登場で、業務にはどのような変化がありましたか?
稲本:正直なところ、「あまり変わっていない」というのが私の認識です。精度が向上したり、開発が楽になったりという実感はありますが、本質的な部分は変わっていません。AIの精度が100%になることはありませんし、100%にならない以上、人間のオペレーションと組み合わせて考えざるを得ない。その構造は、90%の精度でも95%でも変わらないんです。2000年頃の機械学習ブーム、2014年のディープラーニングの登場でも「これで変わる」と言われましたが、結局この構造は同じでした。認識系AIに関しては、今回も同様です。
一方で、大きく変わったのは「民主化」の部分ですね。以前なら専門家が何週間もかけて作っていた読み取りAIが、今では非専門家が1〜2日で作れるようになりました。マルチモーダルLLMの登場で、画像も言語も統一的に扱えるようになったからです。費用対効果が合わなかったような小規模な読み取り処理も、現実的に取り組めるようになりました。
──「唯一変わった」とおっしゃる領域もあるのでしょうか。
稲本:議事録は本当にすごいと思います。「ないよりはあった方がいい」というレベルのものが、どの会議でも手軽に作れるようになった。大騒ぎするほどではないという声もありますが、実務上は大きな変化だと感じています。
現場との連携──「AIで出来た」はスタートラインに過ぎない
──AI開発において、現場との連携で工夫されていることを教えてください。
稲本:私たちは現場がすぐそばにあるので、頻繁に連携を取っています。場合によっては、改善すべき業務の一部を私たちのチームが引き取り、自分たちで実際にやりながら、ソリューションが本当に使いやすいのか、足りない部分がないかを検証することもあります。
たとえば書類をスキャンして自動分類・格納するシステムを作ったとき、「絶対便利だろう」と思って現場に持っていったのですが、なかなか使ってもらえませんでした。そこで若手2人を2週間、現場に派遣して、「手伝うのではなく、その作業を全部引き受けるように」と指示したんです。すると、重要だと思っていなかった小さな機能が、実は大量の書類を処理する際には非常に便利だったり、逆に「このくらいのバグ頻度なら許容範囲」と思っていたものが、現場では「この頻度では安心して使えない」と感じられていたり。そういった肌感覚が得られました。
──「Human in the Loop(人間参加型)」の理想形と、現場にAIを浸透させるためのアドバイスをお聞かせください。
稲本:一番美しい形は、カリフォルニアで走っている自動運転かもしれません。Waymoでは1人の監視員が2〜3台を見ていて、2030年には20台見られるようになると言われています。つまり、めちゃくちゃスキルの高い人1人が、今までの何倍もの判断に関わる世界。それが目指すべき姿だと思っています。
そのうえで一番強く主張したいのは、「100%を目指せ」ということです。90%の精度では信用するな、と。AIを作る側は「できた」と思っているラインが、実はスタートラインなんです。そこから100%を実現するところまで、一緒に考えないとダメですね。
