地政学的リスク──「半導体輸出規制」をめぐる見解
対談では、米中間の技術競争についても率直な意見交換が行われた。アモデイ氏は、中国への半導体輸出規制の維持を強く主張した。
「これを通常の技術として考えるなら、米国のチップを世界中に普及させ、サプライチェーンに組み込むという議論も成り立つでしょう。しかし私はこの技術を、北朝鮮に核兵器を売るかどうかという判断に近いものと捉えています」(アモデイ氏)
アモデイ氏は、半導体輸出規制こそが開発のペースを調整し、安全性確保のための時間を稼ぐ最も効果的な手段だと主張した。同氏は「正直に言えば、ハサビス氏の5〜10年というタイムラインの方が好ましい。社会が準備する時間が得られるからだ」とも述べた。
ハサビス氏は、国際的な協力体制の必要性を訴えた。
「この技術は国境を越え、全人類に影響を及ぼします。最低限の安全基準に関する国際的な合意は不可欠です。開発ペースがもう少し緩やかであれば、社会がこの変化に対応する時間を確保できるでしょう。しかしそのためには国際的な協調が必要であり、現状では実現が難しいのが実情です」(ハサビス氏)
業界が果たすべき責任──「明確な社会貢献」の重要性
AIに対する社会的な反発リスクについても議論が及んだ。1990年代のグローバリゼーションが雇用喪失への対応を怠り、結果として保護主義の台頭を招いたように、AI業界も同様の轍を踏む恐れがあるのではないか──モデレーターからの問いかけに対し、ハサビス氏は業界の責任を強調した。
「AlphaFoldのような、明確に社会へ貢献する事例をもっと示す必要があります。単に語るだけでなく、実際に成果を見せることが重要です。現在の業界全体を見ると、こうした取り組みへのバランスが十分とは言えません」(ハサビス氏)
AlphaFoldは、Google DeepMindが開発したタンパク質構造予測AIであり、創薬研究や生命科学に革命的な影響を与えている。ハサビス氏は、こうした「疑いの余地なく社会に貢献する」成果を業界全体で増やすべきだと訴えた。
来年への展望──「AIがAIを作る」進展が鍵
対談の最後に、両氏は来年までに最も注目すべき変化について問われた。
アモデイ氏は「AIシステムがAIシステムを構築する」という自己改善ループの進展を挙げた。このループがどの程度閉じるかによって、AGI到来が数年後になるのか、それとも「驚異と緊急事態が同時に訪れる」のかが決まるという。
ハサビス氏は同意しつつも、ワールドモデル(世界モデル)や継続学習といった研究領域、さらにロボティクスの飛躍的進歩にも注目すべきだと付け加えた。自己改善だけでは十分でない場合、これらの技術が鍵を握る可能性があるという。
「できればもう少し時間をかけて進めたい。その方が世界にとって良いと思う」とハサビス氏が述べると、モデレーターは「それは皆さん自身でコントロールできることではないですか」と返した。AI開発競争の最前線に立つ2人のリーダーによる率直な対話は、技術の進歩と社会の準備態勢との間に横たわる緊張関係を浮き彫りにした。
