営業部門が縮小し続ける理由
Palantirの成長を支えるもう一つの特徴は、営業体制の軽さである。カープ氏は、同社の営業部門が縮小し続けていることを明かした。
「Palantirの営業部門は、私が見るたびに小さくなっています。これはコスト削減のためではありません。AI分野は信頼性の低い環境です。多くの企業がさまざまなソリューションを試し、失敗してきました。しかし、本当に機能するものを提供できれば、なぜ営業が必要でしょうか。製品が自ら売れていくのです」(カープ氏)
政府向け事業でも同様の状況だという。導入の制約要因は需要ではなく、高度なセキュリティクリアランスを持ち、かつ技術的な専門知識を備えた人材の不足である。
「哲学専攻の仕事は厳しくなる」──雇用の未来
フィンク氏は、AIが雇用を創出するのか破壊するのかを問うた。カープ氏の回答は率直だった。
「西側の議論で残念なのは、『AIが人類の仕事を奪う』という物語が支配的なことです。たとえば、エリート大学で哲学を学んだ人──私自身がそうですが──その専門性を市場で売るのは難しくなるでしょう」(カープ氏)
一方でカープ氏は、職業訓練を受けた技術者の価値が急速に高まると予測した。
「私たちはある電池メーカーと仕事をしていますが、米国の高卒の技術者が、日本の熟練エンジニアとほぼ同等の業務をこなしています。AIによって、彼らを短期間で非常に価値の高い、代替不可能な人材に変えることができるのです」(カープ氏)
カープ氏は、従来の学歴による適性評価の限界を指摘した。米軍のMavenシステム(AIを活用した画像認識・ターゲティングシステム)を管理している人物は、短期大学を卒業した元警察官だという。その人物は、世界規模の高度なターゲティング業務をこなしており、代替不可能な存在になっている。従来の適性評価では、この人物の才能を見出すことは難しかっただろうとカープ氏は語る。
欧州の「深刻かつ構造的な問題」
対談の後半、カープ氏は欧州のAI導入の遅れについて強い懸念を表明した。人生の重要な時期をドイツで過ごし、欧州に深い愛着を持つという同氏だが、現状への評価は厳しい。
「米国と中国は、AIを機能させる方法をそれぞれ理解しています。アプローチは異なりますが、どちらも大規模に機能しています。そしてその差は、多くの人が予想するよりもはるかに速く拡大するでしょう」(カープ氏)
欧州については、より根本的な問題を指摘した。
「欧州におけるテクノロジー導入の遅れは、深刻かつ構造的な問題です。私が最も懸念しているのは、いまだに政治指導者が立ち上がって『深刻かつ構造的な問題があり、これを解決する』と宣言するのを見ていないことです」(カープ氏)
「負荷に耐えられるか」が明暗を分ける
フィンク氏は、発展途上国がAI革命にどう参加できるかを問うた。カープ氏は、AIを「ペネトレーションテスト」になぞらえて回答した。
「AIの不公平な側面の一つは、それが負荷テストとして機能することです。その負荷に耐えられる社会や組織は大きな優位性を得ます。問題は、負荷に耐えているふりをしてきた場合、それが崩壊するということです」(カープ氏)
カープ氏によれば、LLMを組み込んだソフトウェアには、何が本当に機能し、何が機能しないかを隠蔽することが不可能だという特性がある。政治構造は往々にしてそうした隠蔽の上に成り立っているが、AIの時代にはそれが通用しなくなる。
「私は今でも進歩主義者を自認しています。だからこそ言いますが、進歩主義者が今すべき最も重要なことは、『来たるべき革命は、あなたがしていることの本当の市場価値を明らかにする』と正直に伝えることです。望むと望まざるとにかかわらず」(カープ氏)
今後3年間で、あらゆるコミュニティにおいて「市場価値の真実」が突きつけられる時代が来るとカープ氏は予測する。国家であれ企業であれ、自らが「どれだけの負荷に耐えられるか」を正直に見つめることが、AI時代を生き抜く第一歩だという。
