戦場が教える「本当に機能するAI」の条件
フィンク氏は冒頭、カープ氏の実績を称えた。Palantirの株価は上場以来、年率換算で73%のリターンを記録しており、BlackRockの21%を大きく上回る。しかし対談の本題は、AIがいかにして国家安全保障と経済の両面で価値を生み出すかという点にあった。
カープ氏は、米国における産業発展と軍事技術の歴史的な関係から話を始めた。かつては軍事目的で開発された技術が民間に転用され、国民の生活水準を向上させるという循環が存在した。インターネットやGPSがその典型である。しかし近年、特にソフトウェア分野では、この連関が断絶していたとカープ氏は指摘する。
「戦場という環境の特徴は、純粋で剥き出しの現実だということです。企業が『これは機能する』と思い込んでいることとは無関係に、何が本当に機能するかという真実が突きつけられます」(カープ氏)
カープ氏によれば、西側諸国の多くの軍や政府機関では、「PowerPoint上では存在するが、実際の戦場では機能しない」システムが少なくないという。これは企業のIT基盤にも当てはまる問題である。
ウクライナが示した「ゼロからの優位性」
カープ氏はウクライナでの実戦経験を具体例として挙げた。一見単純に見えるドローン運用でさえ、実際には極めて複雑な課題の連続であるという。
「まずドローンをどこに飛ばすかを決めるために、すべてのデータを同期させる必要があります。そのデータを敵に渡さないためには、誰がそのデータに触れたかを完全に把握しなければなりません。さらに、自国の戦略や倫理基準に従って運用する必要がある。味方の協力者を誤って攻撃しないよう、ごく少数の将軍しか知らない情報を組み込む必要もあります」(カープ氏)
さらにロシア軍が電子妨害を強化すると、まったく異なる課題が生じた。通信が遮断された環境で、データを収集しながら任務を遂行しなければならない。こうした動的な課題は、戦闘が始まる前には誰も予見できなかったものだという。
カープ氏は、ウクライナが持つ逆説的な優位性についても言及した。
「ウクライナ軍は、ある意味でゼロから始めました。だから『自分たちのシステムが実は機能していなかった』と戦闘中に発見する必要がなかったのです。一方、米国の優位性は、良くも悪くも数多くの実戦経験を積んできたことにあります。何が機能し、何が機能しないかを現場で確認してきたのです」(カープ氏)
LLMを買っただけでは何も変わらない
対談は、軍事技術の商業分野への転用へと進んだ。カープ氏は、戦場で学んだ原則が企業経営にそのまま適用できると語る。
「軍や情報機関が目指すのは、他のどの組織にもできないことを実現する能力です。企業も同じです。保険の引受業務であれ、病院の患者受付であれ、本質は同じ。情報を整理し、競合他社が持たない優位性を築き、その優位性を容易に奪われないようにすることです」(カープ氏)
しかしカープ氏は、多くの企業がAI導入で失敗している現状を指摘した。
「大規模言語モデル(LLM)を購入して自社のシステムに載せるだけでは、何も機能しません。規制対象の業務、たとえば保険の引受などをLLM単体で行うことは不可能です。今起きているのは、絶対に機能しないアプローチを試した企業が失望しているという状況です」(カープ氏)
Palantirのアプローチは異なる。同社のOntology(オントロジー)と呼ばれるソフトウェア層が、LLMを企業固有の文脈で理解・制御できるよう統合する。これにより、病院の患者受付を10〜15倍高速化したり、保険会社の引受業務を効率化したりすることが可能になるという。
「5年前なら1年かかった導入が、今では1週間で完了することもあります。私たちが担当する領域では、コストの最大80%を削減しながら、売上を大幅に伸ばすことができます」(カープ氏)
