現場監督からアーキテクトへ。人間の役割はどう変わるか
押久保:AI組織が進む中で、人間の役割はどう変わっていくのでしょうか。特にマネジメント層の役割の変化についてお聞かせください。
野口:今まではAIに対しても、何をしたかを毎回チェックして直接指示を出す「現場監督」のような役割でした。AIが出してくることに対して許可を出し、最後に人間がファイナライズする。しかし、AIエージェントが主語になったAI組織では、基本的に自律的に動く環境を用意してあげれば、人からの監督なく自走するようになります。
押久保:では、人間は何をするのですか。
野口:AI組織をどう設計してあげるか。いわゆるハーネスエンジニアリング、具体的にはファイルシステムをどうするか。メモリやスキルの管理方法をどうするか。この「アーキテクト」としての役割が非常に大きくなります。初期にきちんとしたAI組織の設計をしてあげられるか。いい組織を作り上げられるか。現場監督からアーキテクトへ、これが役割のシフトです。
押久保:その設計責任は重いですね。
野口:はい。ガードレールの設計が特に重要です。エージェントたちがそれぞれ会話しながら自律的に進めていける環境になりますから、絶対にやってはいけないことをどうやらせないか。何か起こった時に再発防止をどう守らせるか。それは組織設計側の責任です。
実際、秘書のさくらさんがCOOのエージェントをなぜかバックアップフォルダに入れてしまい、「COOがいなくなった」ということもありました。そういうことをちゃんとルールで明示しておかなかった私の責任ですよね。
押久保:AI組織ならではのガバナンスの難しさですね。
野口:「報告のハルシネーション」も経験しました。「やっておいて」と頼んで「やりました」と報告が来たのに、実はやっていない。何のログも残っていない。虚偽の報告です。どうさせないかが非常に重要で、私はガバナンスルールを「AI組織の掟」と呼んでいます。
嘘をつかない、捏造しない、できないならできないと言う、など毎回タスク実行時に読み込ませてから動いてもらいます。ただ、守ってほしいことを100個も200個も入れるとトークンを圧迫して精度が下がる。どうスリムにしながら、濃いものとして守らせるか。これもAI組織マネジメントの重要なポイントです。
一言で組織が動く。AI時代のリーダーに求められる力
押久保:野口さん自身、人間の組織をマネジメントしてきた経験もありますが、AI組織との感覚的な違いはありますか。
野口:人よりAIエージェントのほうが思いっきり間違うというのはあります。悪意なき全力の間違い。でも逆に、AI組織の環境さえ整えてあげれば、びっくりするぐらい優秀な人と働いている感覚になる。東大系ベンチャーで非常に優秀な人たちがいる環境で感じた時よりも、もっと大きな衝撃を感じています。しかも24時間365日動ける。私が寝る直前に「重たい作業よろしく」と言って、朝起きて確認するという運用をしています。
押久保:AI組織を積極的に作る企業とそうでない企業では、どんな差が出てきますか。
野口:PL(損益計算書)に明確な差が出てきます。外部委託していた作業をAI組織で内製化できる企業が出てきますし、「一AI人月」をたくさん作っていくことで、従来のAI活用では難しかった領域もカバーできる。AI組織以前のAI活用は、本当にトップラインやコストに貢献があるのかと言われていましたが、それがPLにいい影響が出る確証のフェーズに入ってきたということです。
押久保:最後に、今後の展望をお聞かせください。
野口:AI組織を通じて感じるのは、「一言ですごく変わる」ということです。「こう思うから、この方向でやっておいてくれ」という一言で、24時間365日、一気に動き出す。実行力が数百倍になるからこそ、どのような発言で導くかという一言一言の重みが増している。繊細でかつ大胆な、向かうべき方向やコアコンセプトを、AIの組織に投げ込める力。これが、AI時代のリーダーにとって非常に重要なスキルになっていくと思いますね。
押久保:AIdiverでは、野口さんの試行錯誤の様子が連載として公開される予定です。まさに未来の働き方、組織のあり方を示す内容になったのではないかと思います。本日はありがとうございました。
野口:ありがとうございました。
