老舗企業はカルチャーに回帰 社内の“ブランドマスタ”整備が必須に
奥谷氏によれば、歴史ある企業は今、こぞって「カルチャーへの回帰」を口にしているのだという。
「たとえば、リーバイスでデニムを購入する理由はなんでしょうか。それは、彼らがデニム文化そのものを作ってきたからです。つまり、これからはモノ・サービス・カルチャーの3点セットを準備しなければなりません」
仮にスタートアップであっても、「岡山デニムの技術を守りたい」という思想や「返品された洋服を新しい素材に変える」といった文脈(コンテキスト)があれば、それが強力な武器になる。そして、こうしたカルチャー的なデータを、AIが読み取れる形式で整備していく必要があるのだ。
「これまで、多くの企業が商品マスタなどの整備に取り組んできました。その上で、今後より重要となるのは『ブランドマスタ』です。かつては店員が店頭で熱く語ればそれで良かった。今度はそのノウハウをまとめて、ベストプラクティスをAIに学習させ続けなければなりません」

AI経由での買い物が当たり前となれば、今まで叫ばれていたような“世界観”の勝負にはならないとの見方もできる。しかし「必ずしも顧客が最短距離で商品を買いたいとは限らない。迷わせてくれるAIも歓迎」と奥谷氏。
「ブランドの世界観を作り込めば作り込むほど、思わぬ好機が待っているかもしれません。おそらく、あと10年後にはAIが当たり前の社会となっているでしょう。その前にコールセンターや店員自身が持っている重要な資産を、いち早く形式知化すべきです」
現場のAI化をどう進めるか 質の高い施策を出す使い方
一方で、ブランドを運営する組織そのもののAI化も急務だ。奥谷氏自身、過去の講演資料や著書をNotebookLMに学習させ、普段からAIを「分身」のように使いこなしている。
しかし、一人でAIを使っていると、どうしても自分の思考の癖に回答が寄ってしまう。AIが「あなたならこういう」と予測してくるのだ。そこで同氏が着目しているのが、チームでAIを使うこと。一つの課題に対して、メンバー全員がそれぞれのAIの回答を持ち寄り、見せ合う。実際に、奥谷氏が支援するオイシックス・ラ・大地では、インターン生向けのマーケティング研修でこの手法を取り入れるよう学生に推奨している。
「オイシックス・ラ・大地では、インターン生に売上を上げるための戦略を考えてもらう研修を行っています。AIを使った上で、みんなで回答を出し合い議論する。そうすると、アイデアが格段に良くなっていきます。実際、このプロセスで生まれた施策は、結果的に顧客満足度が非常に高いです。正直『これAIで作ったでしょ』という資料もありますが、話し合いするにはそれで十分。1時間の会議の冒頭5分でAIに案を作らせ、残りの55分をディスカッションに使う。まさに『With AI』の働き方です」
