「エンジニア自身はAIを脅威だと思っていない」 AI駆動開発の理想形
──世間では「AIに仕事が奪われる」という懸念も根強いですが、実際の開発現場ではどのような反応が起きているのでしょうか。
佐々木:現場の温度感としては、世間の「脅威論」とは逆ですね。そもそもエンジニアは「新しいものを使いたい」「自分の業務を効率的に進めたい」という欲求が強い人が多い。そのため、社内でAIを導入する際も抵抗の声はあまり上がらず、「早く使わせてほしい」「あれも使いたい、これも使いたい」と前向きな意見が圧倒的に多かったです。実際、当社のエンジニアは日常的にAIを活用しています。プログラミング業務へのAIの浸透度も高いです。
たしかに、シニア層では少し消極的な人もいました。それはAIに対する危機感というよりも、まだ精度が高くなかった過去のAIを触った経験によるものです。しかし、近年のAIの進化を目の当たりにして、その認識も変わってきたように感じます。
この傾向は採用市場にも明確に現れています。最近のエンジニア採用においては、職場を選ぶ基準の一つとして「AIツールが自由に使える環境か」を重視する方が増えています。業務委託の方との面談でも「御社ではどのAIツールが使えますか?」という質問が出るほど。今やAIの制限は、優秀なエンジニアから忌避される要因にもなり得るのです。
──AIがコードを生成するようになると、エンジニアの存在意義が揺らぐという意見もありますが。
佐々木:私はまったくそうは思いません。エンジニアの仕事の本質は「技術でお客様の問題を解決し、世の中を便利にすること」であって、「コードを書く作業」そのものではないからです。
開発者の業務全体を俯瞰してみると、実際にコードを書いている時間は全体の2割~4割程度に過ぎません。それ以外の時間は、何を作るかビジネスサイドと議論し、設計を練り、システムを安定的に運用し、予期せぬ障害に対応することに費やしています。プログラム作成という「手段」の一部をAIが肩代わりしてくれるなら、エンジニアはより本質的な価値提供や顧客の課題解決に集中できるようになります。これまでも複雑な機械語がPythonなどの高級言語に置き換わってきましたが、今回も同じような技術進化の一環と捉えればいいのではないでしょうか。
私たちが推進しているのは、プログラミング単体の自動化ではありません。ブレストから設計、テスト、障害復旧まで、開発ライフサイクル全体でAIを活用する「AI-DLC(AI駆動開発ライフサイクル)」という考え方です。たとえば、ビジネスサイドとの壁打ち相手としてAIを使い、そこで固まった構想をAIが設計・実装する。もし運用中に障害が起きれば、エラー通知をもとにAIが原因を分析し、復旧案まで提示する。このように、開発のあらゆる工程にAIが介在し、人間と協調しながら一連の流れを高速化していくイメージです。
──具体的な進め方を教えてください。
佐々木:再現性のある改善を積み重ねています。たとえば「この情報がある状態でレビューを自動化すると、工数が平均80%は削れる」といった標準的な使い方を整備しているところです。誰でも同じやり方で、同じ程度の成果が出せる必要があります。実際にかかった時間を測定しながら、一つひとつステップを切り分けて地道に進めている状況です。
最初は全員で同じ使い方をしてもらって、何%か生産性を上げます。ある一部のパイオニアだけが使うのではなく、ベースラインを揃えることが重要だからです。その上で、暗黙知を形式知化してAIを駆使すればさらに成果を出していけます。
現在は最初のステップで全員の足並みが揃い始めている段階です。特に当社のプロダクトでは、SaaSの開発とAIの親和性が高く先行して着手しました。今はデスクトップアプリケーションの開発にもAIを活用し始めています。
