目標値は生産性“10%”向上 あえて手堅く考える理由
──AI活用において、弥生ではどのような目標数値を掲げているのでしょうか。
佐々木:我々は「○○%削減」といった派手な成果を狙うというよりも、実体のともなう“手堅い目標”として開発生産性の10~20%向上を掲げています。
もちろん、特定の狭い作業だけに注目すれば「AIの活用で99%削減できた」という大きな成果を出すことも可能です。ただ、繰り返しになりますが、エンジニアの業務はコーディングだけではありません。開発工程全体をとおして考えると、海外の先行事例を精査しても、組織全体での持続的な改善幅は20%前後が妥当なラインとされています。この情報も参考に、当社では設計から構築、運用の主要プロセスにおいて、まずは着実に「10%の生産性向上」を積み上げることにしています。
──一方で、AIを導入する投資対効果では高い数字が求められるケースもあります。経営層にはどのように説明したのでしょうか。
佐々木:エンジニアの成果を定量的に評価し、経営層に投資の妥当性を説明するのは容易ではありません。それなりに大きな金額を投資することになりますし、そもそもエンジニアの生産性とは何かが難しいからです。AIでお客様の役に立たない製品を大量に作っても意味はない。作った製品やサービスがお客様の成果につながってこそ、真の価値だといえます。それもあって、KPIをどう紐づけるかは検討してきました。
とはいえ、あまりに評価軸の変数が多いと複雑化するため、投資判断を仰ぐための試算としては、まず「アウトプット量」というシンプルな指標に落とし込むアプローチをとっています。「AI活用によって同じ人数でより多くの価値を届けられる」というロジックを基軸にし、それを金額換算した際にどれほどのメリットがあるかを試算して承認を得ました。それと同時に、当社の製品はSaaSがメインであるため、サービスが停止してしまうダウンタイムの削減や機能提供の頻度といった「質」の指標も並行してウォッチし、単なる「量」の追求に陥らないようバランスを保っています。
──現場の足並みはどのように揃えたのでしょうか。
佐々木:当社の場合は、最初からエンジニアがAI活用に積極的だったので自然に揃ってきた側面はあります。一方で、トップダウンで進める場合には伝え方が重要だと思います。「上が決めたから使って」と押し付けないほうがいい。どのツールをどう使うかといった技術的な指示ではなく、「なぜやらなければならないのか」という目的を伝えるのです。
私は過去にAIを提供するベンダー側でしたが、現場が求めていないものを経営層が強要して現場と認識がずれてしまい、PoCから抜け出せないケースを多く見てきました。それを避けるためには、目的を定義した上で、具体的な手法については現場の創意工夫に委ねる。「どう使えば一番効率的か、皆で検証してほしい」というスタンスがいいのだと思います。
元々当社では、社長自身が「AIを使わないこと自体がリスクである」という強い危機感を持っていました。その上で、現場には「自分たちの仕事を楽にするツール」としてAIを解放しました。この、経営の「意志」と現場の「ニーズ」が共通の目的の下で合致したことが、PoCから実務へのスムーズな移行を可能にした要因の一つだと思います。
