購買部門がコストセンターを脱する──「先進であり続けるためにまず作る」
ソフトバンクのコストマネジメント本部では、AI実装を明確なミッションとして担う「システム支援/AI実装課」が設置された。目標はFY30(2030年度)に向けた購買業務における50%のFTE(Full-Time Equivalent:正社員換算工数)の創出だ。単なる省人化ではなく、創出したリソースをデータセンター立ち上げなど新規事業へシフトするためのアクションと藤氏は位置づける。さらに、調達AIのパッケージ外販やAI業務導入支援コンサルという形で外に売り出すことも視野に──これまでコストセンターであった購買部門がプロフィットセンターへと転換する構想が動き始めている。
開発方針は「先進であり続けるためにまず作る」の一言に凝縮される。購買業務のToBe(目指す姿)を1年かけて議論・定義したうえで、優先度の高いプロセスからAI化を進め、100を超える調達GPTsの開発を完了した。FY25はChatGPT Enterpriseの活用を最大化する段階と定め、FY26以降はワークフロー型AIと自律型AIによるシステム連携フェーズへ移行する計画だ。中でも「契約条件選択サポートGPT」は全社トップの利用実績を誇り、7,000人超の社員が活用するまでに広がっている。
セミナー後、改めて個別取材の機会を設けてもらった。発表では触れられなかった組織設計の経緯やAI構築の実態について、さらに深く聞いた。
「実装するミッション」を持った組織をどう作ったか
── 購買という領域でAI実装を推進しようと思われた背景には、どのような課題意識がありましたか?
藤:4〜5年前からコーポレート・財務などの管理部門全般の業務改革に携わってきました。RPAから生成AIへとトレンドが移り変わる中で、なかなか前に進みきらない部分があった。なぜかと考えると、私がやっていたのは全社へのAI活用の働きかけや社外事例の提供で、「実装するミッション」ではなかったんです。一番大事なのは自分たちの業務にAIを適用していくこと。それをやらないと机上の空論になる、とよく分かりました。私の出発点が購買・調達部門だったこともあり、業務知識とメンバーとのリレーションという意味でもここが一番強いフィールドだと感じて、現場に戻ることにしました。
── AI開発の専門家チームではなく、業務知識を持つ人間が開発する体制を選ばれた理由は?
藤:エンジニアリングの部分は一部委託会社にご協力いただきました。社内のコアは、購買業務を熟知したメンバーとAIの知見を持つエンジニアの2名です。AIの専門家を採用してくるという時代ではなくなってきている。プロンプトの作り込みは教わりますが、実装するところは業務知識があればブラッシュアップできる。むしろ業務知識がないとできない、というのが実感です。うまくいかなかったからAIから離れてしまう人も多いのですが、プロンプトの磨き方を教えてあげると全然違う。その人がまたできるようになって他の人に教えていく連鎖が生まれています。
全社利用1位のAIを生んだ設計の発想
── 「契約条件選択サポートGPT」が全社で最も使われるAIになったのはなぜだと考えますか?
藤:2つの条件があったからだと思います。そのAIを使うことで従来の稟議スキームを簡略化できること、全社の事業部門に関わる業務を対象にしていることです。作ること自体はもはや誰でもできる時代です。作った後にそれをどう導入するか──ここに尽きます。事業部担当者が購買部門に問い合わせる代わりに直接AIに聞いてその場で答えが出る。人が間に挟まっていたプロセスを取り除いてあげることがこの取り組みの本質で、購買部門は完全にハンズオフできます。
── AIの作り込みはどのように? 講演ではとくに複雑な方法で学習させたわけではないとのことでしたが。
藤:私たちが教えたのは、購買担当者が普段どう判断しているかというロジックだけです。モノを売るなら物品購入契約、コトを売るなら業務委託──担当者は見積書や仕様書を見れば判断できます。そのレベルでインプットするだけでいい。「嘘をつくな」「わからないことをわからないまま回答しない」という基本的な振る舞いを定義したくらいです。リスクについては、本当のリスクは何かを整理することが重要でした。最低限の条項がついた注文書が必ず出る仕組みがある以上、何も書かれていない状態よりリスクははるかに低い。その考え方を関係者にきちんと伝えることで、反対なく進められています。
