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「AX Day(エーエックス・デイ)」は、翔泳社の「AIdiver(エーアイダイバー)」が開催するオンラインイベントです。表面的なAI活用の事例ではなく、事業成長にまで結びつく“AIトランスフォーメーション”の在り方を徹底深掘りします。

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あなたは顧客を過小評価していないか? AIで誰でも分析できる時代、データ(過去)を未来につなげるには

プレイド主催カンファレンス「X DIVE 2026」オープニングクロストーク

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 2026年7月9日、CXプラットフォーム「KARTE」などを展開するプレイドが、リアルカンファレンス「X DIVE 2026」を開催した。今年のテーマは「価値を創るデータとは何か」。AIの浸透にともなってデータの重要性がいっそう増す中、同社 代表取締役 CEO 倉橋健太氏、ペンシルベニア大学 ウォートンスクール 教授 ピーター・フェーダー氏、東京大学大学院 経済学研究科・経済学部教授 柳川範之氏が、これからの企業経営の在り方を探った。

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すべてのお客様が神様なのか? 企業が見ていないデータの“先”

 AIの普及によって、一人の人間がこれまでよりも高度な作業をこなせる時代になった。裏を返せば、同じようなオープンデータを学習したAIを使えば使うほど、そのアウトプットは似通い、コモディティ化していく。こうした状況に、倉橋氏は危機感を抱いている。

「データの量や分析の技術そのもの以上に、その活用目的や質が問われるようになりました」(倉橋氏)

株式会社プレイド 代表取締役 CEO 倉橋健太氏
株式会社プレイド 代表取締役 CEO 倉橋健太氏

 では、倉橋氏のいう質とは何か。そこで挙げられたキーワードが、「カスタマーセントリシティ」、すなわち顧客中心主義である。

 プレイドは、オンライン・オフラインを問わず、顧客一人ひとりの行動をリアルタイムにデータ分析し、企業の意思決定につなげる支援をしてきた。そうした取り組みの中で、多くの企業が売上やサイトへのアクセス数は見ていても、その先にいる“人”を見ていないことに課題を感じていたという。

 そんなときに倉橋氏が出会ったのが、登壇者の一人であるフェーダー氏の原著『Customer Centricity』だった。同氏の考え方に深く感銘を受けた倉橋氏は、後に自ら監訳を手掛け、日本語版『カスタマーセントリシティ 「正しい顧客」に集中する経営戦略』(ダイヤモンド社)を出版するに至る。

「顧客一人ひとりは違う人間です。この当たり前の事実に立ち返り、自社にとって最も価値の高い顧客をデータで見極める。そして、そこに経営資源を集中させることが、カスタマーセントリシティの考え方です」(倉橋氏)

 倉橋氏の紹介を受けて、フェーダー氏は日本企業の意思決定層に「あなたは顧客を過小評価していないか」と問いかけた。この質問には、「それぞれの顧客がもたらす経済的価値を知っているか」「その価値が顧客間でどう異なるか理解しているか」「過小評価されている顧客を認識しているか」という3つの意味が込められている。

ペンシルベニア大学 ウォートンスクール教授 ピーター・フェーダー氏
ペンシルベニア大学 ウォートンスクール 教授 ピーター・フェーダー氏

 フェーダー氏は、日本でよく聞く「お客様は神様」という考え方には同意すると前置きした上で、「必ずしもすべての顧客が等しく神様であるわけではない」と語る。

「一部の顧客の価値が、他の顧客よりも高いということを認識しなければなりません。これは、その他の顧客を切り捨てることとは違います。それぞれの顧客がもたらす実際の経済的価値をデータ化することで、すべての顧客への対応はむしろ良くなる。より高い価値をもたらす顧客には、さらに手厚く向き合う。これこそが問いの本質なのです」(フェーダー氏)

 そのために重要となる指標が、CLV(顧客生涯価値)だ。ある顧客がどれだけの期間にわたって自社を選び続け、どの程度の頻度で製品を購入し、その都度どれほどの金額を使うか──この「期間・頻度・規模」の三つの観点で、顧客一人ひとりが将来もたらす価値を測る考え方である。一方で、これまで多くの企業では、顧客よりも「製品の生産数や販売数」にフォーカスしていたという。

「どれだけの製品を売ったかよりも、どれだけの顧客を獲得できたか。そのうち何人が継続的に自社を選び続けてくれているかに視点を移すべきです。すでに一部の企業は、この重要性に気づき始めています」(フェーダー氏)

 倉橋氏やフェーダー氏が示すように、顧客データは企業の価値を測り直すための出発点だ。ただし、本カンファレンスのテーマにある「価値を創るデータ」は、顧客データだけを指すのではない。企業の中には、まだ可視化されていない価値の源泉がほかにも眠っている。ここから議論は、その一つである社内に蓄積された経験やノウハウ、すなわち「暗黙知」へと移っていった。

問われる人間の価値 AIに代替されない強みとは

 フェーダー氏とともに基調講演に登壇した柳川氏は、AIを使いこなす時代の経営へと話を広げた。今や企業がAIを活用することは前提であり、問われるのはその先だ。

 AIによって、これまで社内に点在していたデータ分析が、一本の線としてつながり始めている。これは事実であるものの、柳川氏は「将来的に何が自社の価値になるかまでは、AIには完全に描き切れない」と指摘する。

 その理由は、AIが過去に起きたことのすべてを学習しているわけではないからだ。デジタル化されていない情報や、現場に蓄積されたノウハウは、まだAIに取り込まれていない。いわゆる「暗黙知」である。社内の暗黙知もまた、顧客データと並んでAI時代の競争力を左右する。

「暗黙知から湧き出てくるアイデアや未来の可能性を導く力は、現段階ではAIには代替されません。人間に残されたアドバンテージの一つなのです」(柳川氏)

東京大学大学院 経済学研究科・経済学部教授 柳川範之氏
東京大学大学院 経済学研究科・経済学部教授 柳川範之氏

 チームや個人の頭の中に眠っている暗黙知を、どう強みに転換していくか。それが、企業にとって大きな差別化要因になるというわけだ。フェーダー氏も「まったく同感だ」と話す。

AIのアウトプットは、過去の履歴に基づく予測にすぎません。これまでの慣例や枠組みにとらわれずに新しいアイデアを生み出す創造性が、人間の価値となるでしょう」(フェーダー氏)

 もっとも、こうした付加価値を生み出すべきといわれても、現場からすれば「どうすればいいかわからない」と戸惑ってしまうだろう。だが、最初から大きな成功を狙う必要はない。柳川氏は「自身の業務範囲で、新しい工夫やアイデアを小さく積み重ねていけばいい」とポイントを挙げた。仕事における創造性は、やはり自らの経験値によるところが大きいからだという。

「過去のデータだけを見て、そのままAIで転用しようとすると、結局は現状維持にとどまってしまいます。過去に経験したことを未来につなげるために、人間の頭脳を使うのです」(柳川氏)

新たなデータを生み出す挑戦 それを受け止める組織の理想形

 ただし、個人の工夫だけでは限界がある。AIを使いこなし、そこに暗黙知を掛け合わせて成果を出すには、個人の努力だけでなく、働き方やそれを支える組織・環境も動かさなければならない。しかし現実には、多くの日本企業がAIを導入しても思うように成果を出せていない。そこで倉橋氏は「その構造的な要因はどこにあるのか」と柳川氏に問いかけた。

 柳川氏によれば、AIを全社的な組織の力に変えようとすると、AIの使い方だけでなく、使い手をどう評価するかなど、人事制度まで含めた組織改革が必要になるという。「ここが特に難しい」と付け加えた。

「日本企業には失敗を恐れる側面が強く、評価に傷がつかないよう、確実な道を選びたがる傾向があります。そうすると、すでに可視化されているデータしか手元に集まらず、AIの活用もその範囲にとどまってしまいます」(柳川氏)

 手元にあるデータの範囲でAIを使うだけでは、そのアウトプットは他社と大きく変わらない。大胆かつ実験的な取り組みで新しいデータを生み出すには、組織の体制ごと大きく変える必要があるのだ。

 組織を動かす解の一つが、柳川氏が挙げた人事評価である。この点について、フェーダー氏が次のように補足した。

「従来、企業は従業員が何時間働いたかを評価していました。しかし、この評価軸自体を成果に目を向けたものに変えなければなりません。AI活用においても、AIをどれだけ使ったかではなく、どれだけ効果的に使ったか。そこから何を学んでいるか。他者とどう協力し、失敗からどう学んでいるか。これらこそ、重視すべき評価軸です」(フェーダー氏)

 フェーダー氏が挙げたこうした評価のためのデータも、顧客データや社内の暗黙知と同様に、AI時代の企業価値を支えるものだ。柳川氏は「今まであまり可視化されてこなかった領域ではないか」と語る。

「多くの経営者は、従業員がどのように働いてくれているのかを把握した上で戦略を描くことができていませんでした。しかし、データの時代である今、従業員の働き方まで可視化し、その結果を事業成長のために活用していくべきです」(柳川氏)

伝統的な大企業の変革は難しい……ヒントとなる意外な視点

 顧客データ、暗黙知、組織や従業員のデータ。これらはいずれも、価値ある顧客に向き合うカスタマーセントリシティの土台になる。では、こうしたデータ軸の経営は、どこから広がり始めているのだろうか。倉橋氏がフェーダー氏に問いを向けると、その答えは、性格の異なる二つの存在だった。

 一つは、小規模なテック企業だ。データに基づいて動き、従来とは異なるやり方でもいとわず実行する。大企業には難しい変革をやり遂げる俊敏さがあるのだ。

 そしてもう一つが、意外にも投資家やPEファンド。近年、彼らの間では、顧客データから企業の将来価値を算定する「顧客ベースの企業価値評価(Customer-Based Corporate Valuation)」への関心が高まっている。フェーダー氏の元にも、「この顧客データを使って、企業の価値をどう見積もればいいか」「買収すべきか否か」「買収した後、どうすればより効果的に運営できるか」といった相談が、数多く寄せられているという。

「変革に最も抵抗するのは、伝統的な大企業です。だからこそ、投資家やPEファンドらによる"上"からの動きと、俊敏なテック企業の"下"からの動きで、その大企業を挟み込むように動かしていく必要があるのです」(フェーダー氏)

AIでアウトプットの差が縮まる中、日本企業の何が競争優位性に?

 講演の最後には、日本企業がAI時代にどう競争優位性を高めていくかにまで議論が及んだ。この問いに対して、柳川氏は改めて暗黙知の重要性を強調する。それに加えて、フェーダー氏が指摘した顧客との関係構築についても、日本の優位性を語った。

「日本企業は、顧客との信頼関係が非常に強いです。それだけ、顧客からの期待値も高いといえます。その期待を裏切らないような、きめ細やかな対応が求められています」(柳川氏)

 フェーダー氏も「顧客の“数”を追い求めるのではなく、一人の顧客とつながっている“長さ”に目を向けるべきだ」と繰り返した。そのために、本講演で何度も語られたデータの可視化はもちろん欠かせない。

 しかし、単にデータを可視化しただけでは他社と横並びのままだ。AIが学習していない暗黙知や現場の経験値をどう上乗せできるか。そこにこそ、AIに負けない人間の力がある。柳川氏は「データと経験値で、AI時代にぜひ立ち向かってほしい」と会場へエールを送った。

 さらにここまでの話を踏まえて、講演の締めくくりとして倉橋氏はこう語った。

「企業が継続的に新しいデータを生み出すには、個人の力に頼るのではなく、組織や企業文化の構造自体を変革しなければなりません。その上で問われるのが、『自社にとって価値の高い顧客は誰か』を見極めるカスタマーセントリシティです。向き合うべき顧客が定まれば、その顧客を深く理解するために『どんなデータに価値があるのか』もおのずと決まる。つまり、顧客を問うこととデータを問うことは表裏一体なのです。その答えは、自社ならではの戦略的な選択でなければなりません」(倉橋氏)

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