商品があっても、顧客の課題と結び付かなければ価値にならない
記事上写真:東京海上日動火災保険株式会社 経営企画部・AI変革室 理事ジェネラルマネージャー(セクションチーフ)牧原卓也氏
2026年9月8日、PKSHA Technology主催の「PKSHA AI Summit 2026」で、東京海上日動火災保険の経営企画部・AI変革室でジェネラルマネージャーを務める牧原卓也氏が、同グループ国内損保事業でのAIの位置付けと、AIの進化段階に応じた活用の考え方を説明した。牧原氏は2026年度から現職。それ以前はCX・dX推進部のディパートメントヘッドを務め、リテール営業や本社企画部門、生保・省庁・労働組合への出向などを経てきた。
東京海上グループはこれまで、事業ごとの特性に合わせてAIを使ってきた。アンダーライティングや事故対応といった、各社がもともと強みとしてきた領域を磨く使い方である。
ただ、顧客が抱える課題は複雑になり、1社の商品やサービスだけでは十分な価値を届けにくくなってきた、と牧原氏は現状を整理する。今後はグループ全体が持つ多様な商品・サービスを組み合わせ、顧客に本当に合った支援を届けることが重要になる。その実現手段としてAIとデータを据えたというのが、同氏が示した構図だ。
グループには、リテール分野で蓄積してきた事故対応のノウハウ、Specialty保険で培ったアンダーライティングの専門性、防災・減災の知見といった強みがある。複数の強みを組み合わせた連携事例もすでに動いている。
問題はその先にある。事業が広がり商品が多様になるほど、顧客と向き合う社員が、グループ内のどこにどんな支援があるのかを素早く選び取るのは難しくなる。優れた商品やサービスがあっても、顧客の課題と結び付かなければ価値にならない──ここが越えるべき壁だというのが牧原氏の見立てである。
「お客様を知る基盤」と「提供価値を知る基盤」
壁を越える鍵として同氏が挙げたのが、AIと二つのプラットフォームだ。
ひとつは「データプラットフォーム」。契約内容や事故履歴といった情報を、顧客の状況やニーズを深く理解するために整理した基盤である。もうひとつは「ビジネスプラットフォーム」で、グループ各社の商品・サービスや専門性を、AIが検索して使いやすい形に整理・管理する。
顧客を知る基盤と、提供できる価値を知る基盤。この2つをAIでシームレスにつなぐことで、コールセンターや代理店といった顧客接点での対話や手続きを、より個々の状況に寄り添った対応へ近づけられるとする。
想定している適用範囲は有事の対応にとどまらない。平時の顧客理解やリスク把握から、災害・事故の発生、保険金の支払い、復旧支援までの一連のプロセスを、2つの基盤とAIで支えていく考えだ。
4類型で進化段階ごとに使い分ける
東京海上日動はAIを「特化型AI」「生成AI」「AI Agent」「AGI(汎用知能)」の4類型に分け、それぞれの進化段階に応じたスタンスを取っている。
特化型AIは、予測や分類など特定タスクに特化した従来型のAIで、近年はディープラーニングによって精度が大きく上がった。保険事業の中核である「リスクの定量化」にすでに広く使っており、今後も強化していく。解約予兆の検知や事故予兆の検知がユースケースにあたる。担い手は専門集団で、高度なモデルを扱う領域という整理だ。
生成AIについては、位置付けが明確に異なる。人の作業や意思決定を高度に支える「アシスタント」として活用範囲を広げるもので、専門集団ではなく全社員が使って能力を拡張することに重点を置く。照会応答、議事録作成、企業情報のリサーチなどが挙げられた。
2025年以降の本格化を見込むAI Agentでは、さらに踏み込む。人間が逐一指示しなくても、設定された目標に必要なタスクを自律的に判断・実行するAIを、作業や意思決定の「代替」として位置付け、業務プロセスの自動化・高度化を徹底する。要点はAIを最大限に活かすプロセス設計にあるとした。
そしてAGIは2030年以降を見据えた段階として、研究と準備を進める対象に置いている。アシスタントから代替へ、そしてその先へ──という段階設計が、同グループの活用スタンスを貫く軸になっている。
