国内損保のコールセンターで年間数十億円規模の削減
AIの取り組みの成果は、具体的な数字とともに示された。
海外のInternational事業では、米国のR&Sで休職者の復帰可能性をAIで分析し、早期復職を支援することで休職の長期化率を約50%減らした。ブラジルのTMSRでは自社開発AIでリスク分析を高度化し、自動車保険のL/R(損害率)を低減。業界平均が約3ポイントの改善にとどまるなか、約4ポイントの改善を達成したという。
国内損保(Japan P&C)事業では、東京海上日動が代理店からの照会応答にAI回答集を使い、対応時間の短縮と品質向上を実証した。業務コストは年間約25億円から約22億円へ下がる見通しである。
コールセンターではAI音声ボットなどを使い、応答コストの約30〜50%削減を目指す。金額にすると年間約80億円から約40億円レベルへの低減で、コスト削減と顧客体験(CX)の向上を同時に実現することを目指している。
東京海上日動は2026年3月から、東京海上日動コミュニケーションズが担うコンタクトセンターの主要業務にAIを導入している。同社のコンタクトセンターには顧客と代理店から年間約700万件の問い合わせが寄せられており、応対品質の均質化と、オペレーターがより専門性の高い領域に注力できる態勢づくりが課題になっていた(2026年3月4日付リリース)。牧原氏が挙げた数字は、こうした実装の延長線上にある。
AIエージェントからの問い合わせに、どう答えるか
今後の推進役となるのが、グループのCoE(Center of Excellence:中核的推進組織)である「AI-HUB」だ。ここでのR&Dの進め方が、同グループのAI戦略でもっとも示唆に富む部分かもしれない。
AI-HUBはまず、技術進化が事業に与える影響を分析する。前提に置いているのは、将来的に各社独自のAIエージェントが自律的に連携して業務を担う姿である。
次に、AI時代に選ばれるために必要な仕組みを特定する。具体例として挙がったのが、AIエージェントからの問い合わせに迅速かつ正確に応答する仕組みの検討だ。問い合わせてくる相手が人間ではなくAIになる前提で、応答の設計を考え直すという発想である。
そのうえで、各社の戦略立案と開発・実装を支援する。自社AIエージェントの開発に加え、正確に動かすために必要な商品・約款などのデータ整備を強く後押しする。
この方向性は、グループの動きとも重なる。東京海上HDは2025年9月にOpenAIとの戦略的連携を開始し、営業戦略の策定から保険事業のオペレーションまで、生成AIを業務基盤の一部であるAIエージェントとして組み込む取り組みを進めている。2026年4月にはグループCAIO(AI戦略総括)を新設し、楠谷勝氏が就任した。組織と外部連携の両面で、AIエージェント前提の体制づくりが進んでいる。
自社の情報は、AIから読める形になっているか
企業IT部門にとって持ち帰るべき論点、最後のデータ整備のくだりにありそうだ。
AIエージェントが商品を比較し、顧客に代わって問い合わせる時代を想定するなら、自社の商品情報や約款、サービス仕様が、AIから検索・解釈できる形に整っているかどうかが、そのまま選ばれるかどうかを左右する。人間向けに最適化されたPDFやWebページのままでは、応答の土俵に上がれない可能性がある。
東京海上グループが「ビジネスプラットフォーム」として自社の提供価値を整理し直しているのは、この土俵づくりにあたる。顧客データの整備は多くの企業が着手済みだが、自社が提供できる価値の側を機械可読にする作業は、まだ手つかずの企業が多いのではないか。二つの基盤を対で設計するという発想自体が、他業種にも応用の利く示唆といえそうだ。
