バイブコーディングを通して、コミュニケーションが変わる
では、経営者の目線ではどう見えているのか。清水氏は「仕事の仕方が質的に変わっているのは間違いありません」と断言する。
第一の変化は、作ろうとすら思わなかった細かい業務ツールが手に入るようになったことだ。例えば、NDA(秘密保持契約)を結んでいない相手から届いた企画書は無条件で捨てなければならない。NDAを結んだ相手か、結んでいない相手か。今はこの仕分けをAIに任せられる。確定申告やアポイントの調整も守備範囲に入ってきた。
第二に、スピードの質が変わった。打ち合わせの最中に相手が「こんな感じだよね」と口にした瞬間、その場で手を動かす。すると打ち合わせが終わる頃にはプロトタイプができあがっている。「こういうことですか」と見せれば、「いや、こうではない」「ここは違う」と、認識のずれをその場で潰せる。
この効果は、エンジニアではない人ほど大きい。清水氏は銀行の会長や役員クラスだけを集めたハッカソンを開いており、数々のプロダクト開発に参画してきた同氏から見ても「結構いいプロダクト」だった。そのほかにも、運送会社のオーナーや私立女子校の理事長を集めた回では、参加者が5分ほどでプログラムを書き、「トラックの配車プログラムを作ってみようかな」という声が出た。
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経営トップが自分でイメージを形にできるようになると、その後のコミュニケーションまで変わる。従来、大きな会社のトップはぼんやりと大切なことを言い、図を描いてくれるものの、その意味が分からないということがよくあった。本人にやってもらえば、少なくとも何がしたいのかは分かる。清水氏は複数社の顧問先で「大抵1回は経営層にバイブコーディングをやってもらっています」と話す。そのプロセスを経ると、「それをやるためにはこの機械が必要ですね」といった具体的な話に変わり、見積もりの精度も上がる。
一方で、失われる仕事もある。清水氏は、労働集約型のビジネスや、コンピューターに少し詳しいというだけで対価を得るビジネスは「どんどん難しくなり、おそらく消滅していくのではないか」と見る。逆にコンサルタントや営業に近いレイヤーの人がAIを使いこなせば、生産性は爆発的に上がる。最近聞いた事例では、外注に数千万円かけていた仕事が70万円ほどで済み、場合によってはChatGPTやClaude Codeの利用料のみで片づいたという。
「すべての道具がプログラム可能になった」
ここに至るまでには、いくつかの段差があった。バイブコーディングという名前が付く前、2年ほど前からChatGPTやClaudeの性能向上によって実態としては始まっており、当時すでに「Aider」のように、AIがプログラムをゼロから書いて環境構築まで担うツールが出回り始めていた。
障壁は料金体系だった。都度課金のため、やればやるほど費用がかさむ。清水氏自身、初期は1本組むのに6000円ほどかかっていた。毎日6000円なら大学生のアルバイトを雇うより安いが、それでも続かない。「お金が無尽蔵に使える人でないと挑戦できなかった」
風向きを変えたのは定額制だった。今では月額3万円ほどでほぼ制限なくトークンを使うことができ、速度も精度も上がった。かつてはNVIDIAドライバのセットアップだけで1日仕事だったものまで、いまではClaude Codeが引き受けている。
性能面の転換点として挙げたのは、o3-miniの登場だ。「一番大きいなと思ったのは、やはりChatGPTのo3-miniが出てきた時です。『これでもうプログラムが書けるではないか』とあまりにびっくりして、翌日ハッカソンをやりました」と、清水氏はその衝撃を振り返る。
この段差を越えた先で変わったのは、開発の速度だけではない。清水氏は自身も装着するスマートグラスのRokidを例に挙げる。単体でAndroidが動くこのRokidを、加速度センサーが止まっているときだけシャッターを切るライフログカメラに仕立てた。自作したApple Watchのアプリは24時間発言を録音して自宅のMacへ送り続け、朝起きると前日の約束やToDoがまとめられている。本人は1行もコードを書いていない。
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「今までとガジェットというか、道具との向き合い方が変わり、すべての道具がプログラム可能になるわけです」
