エンジニアリングの主眼は「会ったこともない人がどうすれば喜ぶか」へ
ここで「少し気持ちが暗くなりますね」と聞くと、清水氏はこう答えた。
「今までエンジニアリングにはあまり役に立たないと思われていた能力、相手を思いやる力、真心や思いやりというところに価値が移っている。これ自体は、ある面ではいい話だと思っています」
ズルをする人や人の弱みに付け込む人が得をする。一方で、ただ優しいだけの人は損をする。従来見られた構造が入れ替わる、というのが清水氏の読みだ。
「誰も見ていないところで空き缶を拾うとか、傘を届けてあげるとか、そういう普通の優しさがある人の方が、多分エンジニアとして価値が高まってくる」
理由は精神論ではない。これからのエンジニアリングの主眼が、会ったこともない人がどうすれば喜ぶかを考えることに移るからだ。そして苦役の引き受け手も変わる。バグを取る作業はAIがやる。清水氏自身の実感が、その変化の大きさを示している。
「実際に、私は若い頃の10倍プログラムを書いていると思うのですが、書いているのはAIですから。100倍暇ですからね、コードを書かれるのを待っているだけです。」
本来これは楽しいことのはずだ、と清水氏は言う。現場のエンジニアが苦しいのは、変化そのものではなく、自分の楽しみのために書くことが許されない世界にいるからだ。「こんなことができたら面白いな」と思ったものができてしまう。だから次は何をしようかと考える。
「だからこれは決して別に重たい話ではありません。ただ現実とのギャップがあるだけだと感じます」
AIの登場に関わらず、ビジネスの原則は「お客さんに儲かってもらうこと」
エンジニア以外にはどんな変化が訪れるか。清水氏は「目線としてはエンジニアと一緒」、つまり「より人間や世界に着目するしかありません」と答える。ここから、ソフトウェアを開発する会社を例に話が進んだ。
ソフトを作って売るだけの時代は終わった。加えて、コンピューターが苦手だという人そのものが減っていく。プログラミング教育が義務化された最初の世代が社会に出てくる頃だと清水氏は言う。これから大学を出る人たちは「みんな私達よりずっと詳しい」と認める。
その実感の裏には、具体的な光景がある。長岡の中学校でハッカソンを開いたとき、作業時間はわずか15分だった。清水氏はその衝撃を、「見たことないようなものがめちゃくちゃたくさん出てきて、『これがいわゆるデジタルネイティブというか、AIネイティブな子どもたちということなのだ』と目の当たりにする」と振り返る。
では、ネイティブ世代を迎えるベテランは何で勝負するのか。清水氏の答えは経験値だ。美術館に行く。世界中にある得体の知れない祭りに足を運ぶ。清水氏は「そういった人がやったことのない経験値を積み重ねていくことに勝るものはない」と断言する。
同じ話をしても、そういう場所を経験してきた人は頼もしさが違う。「この人だったらちゃんと正しくコンピューターを使ってくれそうだ」と思ってもらえるかどうかが効いてくる。
そのうえで清水氏は、ビジネスの原則を一つ挙げた。
「ビジネスの基本はお客さんに儲かってもらうことです。ここをすごく履き違えている人が多くて、自分の会社が儲かることを考えている人がすごく多いです」
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お客様が儲かって初めて、自分の会社が儲かる。ソリューションを売りつけただけでは価値にならない。では顧客が儲かるには何が要るのか。顧客の事業の理解だけでは足りず、世界がどうなっていて、どういう人が何を求めているかを掴む必要がある。
清水氏が実例として挙げたのが、メルカリ創業者の山田進太郎氏だ。山田氏はゲーム会社を立ち上げて外国企業のZyngaに売却し、その後あてもなく世界一周に出る。そして世界を2、3周した頃に、ひとつの結論にたどり着いた。人は人に物を売りたいのだ、と。「世界の人が必要なサービスはこれなのだ」と言ってメルカリを作り、巨大なサービスに成長させた。
「ビジネスはやはり結局人の役に立つということが大前提です。誰も必要としていなかったら仕事は来ません」
