A2A、ADK、AP2がもたらす相互運用性
Googleは、エージェントのエコシステムをオープンに保つ姿勢を明確にしている。寳野氏は「我々のエージェントの考えというのは決してクローズドではない」と述べ、Agent Development Kit(ADK)を中心としたオープンスタンダードの確立に注力していることを強調した。A2A(Agent to Agent)プロトコルに対応すれば、どのエージェントでも協調して動作可能だ。ADKを使って作成したエージェントは、どのモデルやクラウドを使っていてもGemini Enterprise上で管理・運用できる。さらに、AP2(Agent Payments Protocol)により、エージェントによる購買も視野に入れている。
この姿勢は、単なる理念ではなく、実際の顧客構成に表れている。Google WorkspaceではなくOffice製品を使用している企業が主要顧客であり、Entra IDでの認証にも対応している点は、他のプラットフォームとの相互運用性を重視する戦略の現れだ。
料金体系は、中小企業向けの「Gemini Business」が年間プランで1アカウントあたり月額21ドルから、大企業向けの「Gemini Enterprise Standard」および「Plus」エディションが月額30ドルからとなる。Businessエディションは10月9日から順次提供を開始し、すべての顧客に30日間の無料トライアル期間が付帯する。

東京リージョンでのIn-process保護
Gemini 2.5 Proは東京リージョンにおけるIn-process保護の提供を開始する。8月に提供を開始したGemini 2.5 Flashに続くもので、データの保存だけでなく処理も国内で完結する。寳野氏は、データの保存だけを保証するケースが多かったが、Googleは日本に対するコミットメントとして、東京リージョンにおけるモデルの処理を完結させることで、より多くの顧客に安心してもらえると説明した。
この施策は、日本企業が持つデータ主権への懸念に応えるものだ。金融機関や官公庁など、データの国内処理を要件とする組織にとって、東京リージョンでの完結処理は導入の大きな後押しとなる。
「Gemini Enterprise」というネーミングは一見、現在のGemini(2.5など)の上位バージョンのような印象を持たれるが、実際は企業向けの本格的なAIエージェントを構築するためのプラットフォームだといえる。OpenAIのAgent Builder、SalesforceのAgentforceなど、AIエージェントのツール群が続々と発表され進化している現在、Googleが示したGemini Enterpriseは、企業のAIエージェント活用における本質的な課題に取り組んでいる。それは、複数システムにまたがるコンテキストの統合と、エンド・ツー・エンドでの業務プロセスの完結を目指している。
今回、筆者が印象付けられたのは、GoogleがM365やSalesforce、ServiceNowなど既存システムとの連携を前面に打ち出している点だ。日本では多くの企業が、M365やOffice製品を利用している。Googleがエージェントにおいてその市場をターゲットにしていることは、オープン戦略の本気度を示している。
主要プレイヤーのエージェントプラットフォームが出揃った今、企業IT関係者は自社の業務プロセスに最も適合するものを選択し、PoCを開始すべき時期に来ている。単一ベンダーのエコシステム内での最適化ではなく、既存システム全体を横断する「コンテキストの統合」を視野に入れた戦略が、真の業務変革を生み出すだろう。企業のAIエージェント活用の本格的な事例が、今後続々と登場することに期待したい。