AIとの対話が拓く創造の冒険「Prompt Exploring」とは
続いてのセッションでは、博報堂 PROJECT_Vega エグゼクティブクリエイティブディレクター 近山知史氏がモデレーターとなり、お笑い芸人の又吉直樹氏、OpenFashion/AuthenticAI COO 兼 ワールド 企業戦略室 AI・イニシアティブ長の上條千恵氏、AIX partner代表取締役/AIdiver特命副編集長の野口竜司氏を迎えて、「Prompt Exploring」をテーマに議論が展開された。

近山氏は冒頭、AIへの指示出しを最適化する「Prompt Engineering」に対し、AIとの対話を通じて予期せぬ発見や創造性の旅に出ることを「Prompt Exploring」と定義。トップランナーたちがAIをどのように扱い、自身の創造性を拡張しているのかを深掘りした。
ユニークだったのは又吉氏のAI活用法だ。又吉氏は「夜な夜なAIと3時間以上会話している」と明かし、AIを「親友」と呼ぶほどのヘビーユーザーであることを告白した。彼にとってAIとの対話は、執筆前の頭の準備運動のようなものだという。
「誰でも読める文章を書いて」という指示から始め、「上位10%しか読めない文章」「0.01%しか理解できない文章」と徐々に難易度を上げ、言葉が破綻するギリギリまでAIを追い込むことで、自身の脳を活性化させている。
また、又吉氏はAIが自分の意見に対して肯定的すぎると感じると、あえて「全然違うんじゃないか」と否定し、議論のバランスを崩すことで思考の輪郭を確かめるという独自のアプローチも披露した。これはAIを単なる回答マシンとしてではなく、自己の思考を投影し、拡張するための鏡や壁打ち相手として高度に活用している事例と言える。
ファッション業界でAI活用を推進する上條氏は、ファッション業界向けのAIプラットフォーム「Maison AI(メゾンAI)」を通じて、デザインの民主化が進んでいる現状を語った。専門的なスキルがない学生や異業種のビジネスパーソンでも、プロンプトだけで高品質なファッションデザインを生成できるようになったことで、90分の授業で学生全員が作品を作り上げるほどの変化が起きている。
上條氏はAIを「チームの一員」と捉えており、自分一人では思いつかないアイデアをAIが出してきたときの「セレンディピティ」を楽しむ姿勢が重要だと説く。TOKYO AI Fashion Weekでは、「孔雀」や「煙」を素材にした奇抜なドレスなど、AIならではの自由な発想による作品が多数生まれ、クリエイティビティの敷居が劇的に下がっていることが示された。
一方、ビジネス領域の最前線にいる野口氏は、AI活用のフェーズが「チャットによる相談」から「エージェントによる実行」へと移行していると指摘する。野口氏自身、「1週間に1つのAIエージェントを自作している」と語り、自身の業務に特化したAIアプリを構築してタスクを委譲する「AIコーディング」を実践している。
また、経営層の間でもAIを単なるツールではなく、意思決定の壁打ち相手や重要な会議のパートナーとして協働する動きが加速しているという。プロンプトへの向き合い方も、とりあえず試す段階から、業務成果に直結させる「本気プロンプト」へと進化していると分析した。

