「AI-Native」化を宣言したメルカリの現在地
――今回は、メルカリの石渡さんをゲストに、同社がHakuhodo DY ONEと進める「A2A(Agent to Agent)基盤」のPoCについてうかがいます。現在、Hakuhodo DY ONEと「ONE-AIGENT」のPoCを実施中だそうですね。どういったきっかけで開始されたのでしょうか?
メルカリ Marketing Manager / AI Marketing Lead 石渡貴大氏
デジタル広告代理店での営業や運用、ニュースアプリでのマーケティング責任者などを経て、約1年前にメルカリに入社。現在はマネージャーとしてデジタルやマス広告、キャンペーン企画に携わるチームを管掌しながら、AI Marketing Leadとして社内のマーケター向けにAI活用を推進している。
石渡:当社では2025年7月、社内に「AI-Native」化を宣言しました。全職種で様々な取り組みを行っていますが、デジタルマーケティングにおけるカギは「データ」と「クリエイティブ」の2軸です。当時からクリエイティブはHakuhodo DY ONEさんに制作いただいていたので、「AIに振り切ってほしい」とリクエストしたのが、昨年夏ごろでした。
まず、AIで生成した画像・動画を大量にアウトプットしていただく中で、制作フローを何度も見直しました。画像や動画の生成がある程度見えてきたので、クリエイティブの企画部分もAIでより効率化・高度化できないかと考えて、今回のPoCに至りました。
柴山:我々も、AIエージェントが台頭する中で、ワークプロセスやアウトプットはさらに変化すると考えていました。その変化を「自社の進化」に変えるべく、ONE-AIGENTをさらに磨き込んでいた折、メルカリさんのAI-Nativeが発表されました。
そこで、我々としても挑戦となる企業間のA2A、またZero Data Sharingを含めて、未来のマーケティングをともにつくっていただけないかと提案し、組ませていただくことになりました。
――メルカリでは、先の宣言より前からAI活用に積極的に取り組まれていたと思いますが、直近でどういった課題があったのですか?
石渡:メルカリでは、デジタル広告やマス広告、「超メルカリ市」のような大型キャンペーンなどを回すのに、調査からインサイト抽出、制作、媒体社との調整まで多くのタスクが発生します。
ただ、単に現場のマーケターが個別にAIを使うだけでは、組織全体の知見として蓄積されず、ブランドのガイドラインを反映させるのも難しかったのです。また、我々は膨大な一次データを持っていますが、それを安全かつ効果的にAIの意思決定に組み込むことも、大きな壁でした。
どのデータをどう使うと成果が上がるか、最初の設計が重要
――PoCを通して、そうした課題の解決に取り組んでいるということですね。
石渡:はい。当社にはもともと社内エンジニアも多いですし、AIタスクフォースとしての動きもありますが、広告領域においては代理店さんや媒体さんなどの外部パートナーとともに進める業務の比重が大きく、重要でもあります。柴山さんからは、実験段階とはうかがっていましたが、その前提でもぜひ一緒に進めたいと考えました。
――では、今回両社で構築したA2A基盤についてうかがいます。この構築自体が先進的かつ野心的な取り組みですが、現在までの道のりを教えてください。
石渡:以前から、クリエイティブ制作のためにメルカリのファーストパーティ・データを提供していましたが、すべて手作業でデータを抽出していたんです。そこで、Hakuhodo DY ONEさんのほうで立ち上げている、トレンドキャッチやコピーライティングなど様々な機能を持つAIエージェントが、必要に応じて当社内のデータを取得できるようにしました。
メルカリ社内でも、Socrates(ソクラテス)というデータ分析エージェントを開発しました。Socratesと外部のエージェントの連携を考えているわけではありませんが、いずれ領域を絞った分析エージェントを立てて、A2Aとしてつなげられればと考えています。
柴山:広告主によってマーケティングの目的が異なり、ファーストパーティ・データも千差万別なので、その整理が第一歩になります。今回でいうと、メルカリさんにどのようなデータの種類があり、どうマーケティングと連動すると事業に貢献するか、その設計を最初に丁寧に行うことが大事でした。
企業間AIエージェント連携の可能性と実現する仕組み
――実際に、どんな仕組みを構築されたのですか?
柴山:ひとことで言うと、ニーズや購買の分析から動画広告生成までを自動で行う仕組みです。
まず、メルカリさんにある購買データと、当社の持つトレンドデータなどを組み合わせ、どういった商品がどの程度購入されそうなのかを分析します。次に、その商品群に対してどのようなクリエイティブが有効かを判断し、そして動画広告を生成します。
従来、人が手作業で行っていた提案は、いわば“最大公約数的”な数案に留まっていましたが、自動化によって、細かなニーズを捉えた大量の案を提示できるようになりました。これに伴い、人間側の役割は「ゼロからアイデアを作る」フェーズから、「膨大な選択肢から最適なものを選び、磨き上げる」フェーズへとシフトしました。
画像右の「Execution Canvas」は、指示内容に対してその都度AIが構築した最適なフローを可視化するパネル
(クリックで拡大)
――具体的に、A2A基盤を実現する技術について教えてください。現状と、重要なポイントは何でしょうか?
柴山:現在、メルカリさんのデータと我々のAIエージェントの機能を連携し、広告制作を自律的に実行するプロトタイプが完成しています。メルカリさんの分析エージェントとの直接の対話は、まさにこの先の本格的なA2A基盤における中核となります。
重要な点は、「AIエージェントが正しい分析を精度高く出せるか」「AIエージェント間の会話で、それがねじ曲がらないか」「情報に必要な保護がなされているか(ガードレール)」など、多岐にわたります。
企業の生命線を守る「Zero Data Sharing」の思想
――なるほど。企業がAI、特に外部のLLMを活用する上で、最も懸念されるのがセキュリティとデータの取り扱いではないかと思います。今回、キーワードとして「Zero Data Sharing」を掲げられていますね。
柴山:はい。A2Aでは、人がAIを使うのと異なり、人のチェックなしにAIエージェント間で会話する領域が生まれます。そこで、設計の意図通りに会話できるかの検証は、極めて重要です。
Zero Data Sharingとは、自社のデータをパートナー(今回はHakuhodo DY ONE)には渡さず、セキュアな環境でLLMによって分析された結果のみをパートナーへ渡すアプローチです。企業にとって、自社の一次データや秘匿性の高いマーケティング戦略は生命線です。これらを、外部の企業へ多様な軸での分析が可能な「生データ」で渡すことは難しいです。結果、分析の結果を渡すために人力で分析や加工を行って連携している実態があります。
このプロセスをA2Aで再現し、自動化しようとする試みがZero Data Sharingとなります。今まで人が担っていた役割をAIエージェントが代替する。人がチェックしていた部分をAIへ委ねるという形になりますので、AIエージェントの会話(出力)が、意図したとおりにコミュニケーションしてくれるかの設計が、とても重要になってきます。
ガードレールが正しく機能するよう、NVIDIAのNVIDIA NeMo-Agent-ToolkitやBlueprintなどを主軸に、多くのAgent構築のシステムの活用、また一部はスクラッチの開発を含めて進めています。
――今回のPoCにおいて、具体的にどのような成果が得られていますか?
石渡:やはり、データ抽出やチェックなどの人的な工数は圧倒的に減りました。クリエイティブも圧倒的に幅が広がりました。メルカリは商品カテゴリーが広く、買う側・売る側の両方のお客さまに訴求できるので、まだまだ実行の余地があります。
たとえば「袴」だと、ボリュームは決して大きくなく、訴求期間も限られます。ですがAI分析でインサイトを抽出し、制作を高速化・省力化したことで、広告をタイムリーに打ち出せるようになりました。
企業間だけではなく、生活者と企業もAIエージェントでつながる未来
――現在進行形とは思いますが、ここまで形になってきたことで、新たな気づきやアイデアがあれば教えてください。
石渡:メルカリの提供データはまだ限定的なので、その拡充によって、より精度の高いマーケティングが実現すると考えています。たとえば、ある商品群がSNSで話題になるのと、メルカリ内で検索され売れていくのとは、時期が少しずれてきます。Hakuhodo DY ONEさんのAIエージェントにあるトレンドキャッチの機能と連携すれば、メルカリで特定の商品がいつごろ売れそうかをつかむこともできそうです。
ただ、これも人力では追いつきません。A2Aによって、クリエイティブ制作にスピーディに入れると思います。
柴山:広告会社やマーケティング会社が有するデータの分析だけでは、マクロ的な観点が強まってしまう部分もあり、それだけで判断してしまうと時にはミスリードにもつながりかねません。広告主の持つファーストパーティ・データを組み合わせることで、見えてくる未来予測の幅が大きく広がり、かつ精度も高まります。まだ気づいていない生活者インサイトや、より商品実態に沿ったマクロな行動の変化の把握もできるはずです。
――今回は企業間のA2A事例ですが、企業と生活者間のA2Aも進みそうでしょうか?
柴山:はい、近い将来、生活者も自分専用のAIエージェントを持つような世界観もあると思います。たとえば「来月、家族でキャンプに行きたいから、必要なものをメルカリで安くそろえておいて」と自分のAIに頼む。すると、ユーザー側のAIがメルカリ側のAIエージェントと通信し、最適な商品を交渉・提案・決済まで済ませてしまう。このようなA2Aの世界は大いにあり得ます。
マーケティングプロセス全体をAIエージェントと協業する
――最後に、今回の取り組みを踏まえて、今後の展望をうかがえますか?
石渡:より深く、高度な定量・定性分析をAIが担うようになると、人が担っていたときには生まれなかったアイデアが次々と生まれ、高速にアウトプットされる世界になると思います。それによる事業成長に期待していますが、どこかひとつでも人の手や目が入ると、そこがボトルネックになる可能性もある。なので、企画・制作・入稿・分析のフローをすべてAIエージェント前提にするのが理想ですね。
そのためには法令やメルカリのブランドガイドライン遵守の担保など、大きな課題が残っているので、Hakuhodo DY ONEさんのお力も借りながら解決していきたいと考えています。
柴山:今回、メルカリさんと組ませていただくことで、A2Aという新たなマーケティングの可能性を模索できています。A2Aによる“圧倒的な手数”という新たな武器を手に、Hakuhodo DY ONEとしては広告主の戦略支援などにより力を入れ、マーケティングパートナーであり続けることが重要だと考えています。
生活者にとっても、A2Aが広がれば自分に有益なメッセージを受け取れて、不要な広告にあたる可能性は低くなります。広告主の成果を最大化しつつ、生活者にとってうれしい情報、ギフトとなる広告を提供できるように発展させていきたいです。
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