Salesforce──データの品質とガバナンスを整え、AIエージェントの信頼性を担保する
Salesforceが注力しているのは、CRMを起点にしたデータ層の品質管理とガバナンスだ。どれだけ優れたAIモデルであっても、企業固有の業務の流れやデータの意味を正しく理解できなければ、現場では使い物にならない。そしてAIがデータの意味を正しく理解するには、データそのものの品質と整合性が保たれていることが前提になる──この課題への回答として、Salesforceはデータ統合・品質管理企業のInformaticaを2025年に買収した。
セールスフォース・ジャパン専務執行役員の三戸篤氏は「エージェンティック エンタープライズ」というビジョンをこう説明する。「企業には複雑な業務プロセスがあり、厳密な権限管理が求められ、24時間365日止まらない運用が前提になっている」。AIエージェントがその複雑な現実に根ざして動くためには、「信頼できるコンテキスト」の整備が欠かせない。MDM、データカタログ、データリネージュ、データ品質管理という機能群がSalesforceのエコシステムに加わることで、その整備が一段と進む見通しだ。
「AIがなぜこの答えを出したのか、データが本当に正しく業務で使える状態にあるのかの信頼をAIは担保することが必要」と同社インフォマティカ事業部の森本卓也氏は語る。
中間層から開発層への橋渡しを担うのが、MuleSoftのAgent Fabricだ。あらゆる場所に構築されたAIエージェントを一元管理し、エージェント間のオーケストレーションとガバナンスを実現する。Salesforceの戦略はデータ層の信頼性を固めることで、その上で動くエージェントの精度を底上げするという順番で組み立てられている。
AWS──「選択肢の幅」という基盤層の強さと、物理世界に踏み出す新しい開発層
「最も重要なキーワードは選択肢の提供だ」とAWSジャパン代表執行役員社長の白幡晶彦氏は語る。Amazon Bedrockは10万社超が活用し、Amazon Nova、AnthropicのClaude、Meta、OpenAI、Googleなど多様なモデルから企業ニーズに応じて選択できる。チップもNVIDIA・Intel・AMDに加えてAWS独自のTrainiumが選択肢に並ぶ。2027年までに国内AI・クラウドインフラへの約150億ドル投資という計画のもと、ホロコアファイバー(従来比30%の遅延改善)やNitroセキュリティチップといった基盤層への継続投資が続く。
開発層では「Kiro」が登場した。IBMのBobと同様に「仕様駆動型」のコーディングツールとして打ち出されており、AIを活用したコード生成(いわゆるバイブコーディング)で曖昧になりがちな要件定義を補強する位置付けだ。
AWSが2026年現在、注目を集めているのは「フィジカルAI開発支援プログラム」だろう。日本のロボット開発企業向けに総額600万ドル規模のAWSクレジットを提供し、VLA(Vision-Language-Action:視覚・言語・行動を統合して制御するAI)と呼ばれるロボット制御AIの開発を支援する取り組みだ。「フィジカルAIは一時的な流行りではない」と白幡氏が強調する背景には、Amazonの自社運用実績がある。世界300カ所以上の施設でロボットを稼働させ、DeepFleetという基盤モデルでロボット群の移動効率を改善してきた。「世界最大級のモバイルロボットの製造元であるとともに運用者でもある」という実績が強みとなる。製造業・物流・農業など物理世界とAIを結びつける領域では、こうした実運用の蓄積が独自の開発層として機能しうる。
2026年後半──「どこから固めるか」で問われる企業のアーキテクチャ判断
4社の戦略を並べると、各社の競争軸が浮かぶ。IBMは複雑環境のオーケストレーション力でクラウドやレガシーシステムを束ねようとし、Oracleはデータ層と基盤層の垂直統合で「外に出ない設計」を貫く。Salesforceはデータ品質を先に整えることでエージェントの信頼性を底上げし、AWSは基盤層の選択肢の広さと物理世界への展開で差別化を図る。
共通するのは、統合的なプラットフォームを志向しつつ内部ではオープンであることだ。いずれもすべてのレイヤーを自社製品だけで完結させようとはしていない。複数のベンダー製品が乗り入れ可能な設計を取りつつ、自社が最も深く握る層を起点にオーケストレーションの主導権を取ろうとしている。
企業にとって重要なのは、自社のシステムでどの層が弱く、どの層が強いかを見極めることだ。その判断が、4社のどこと組むべきか、どこから整備すべきかを決める。
AIの導入は、どのLLMを選ぶかという段階から次のフェーズに移った。基盤・データ・開発の各層をどう組み合わせるかが問われる時代になっている。2026年後半は、各社の取り組みが実際の成果として表れてくる時期になるだろう。
