金融の仲介機能は死なない。そういいきれる理由
石野:金融の本質は仲介業といわれます。AIによって取引が自動化されていく中で、金融はどのように変わると予想されますか。
上ノ山:まず、仲介機能が不要な社会にはならないと思います。AIがどれだけ進化しようと、仲介機能は絶対に必要です。お金が足りている人と足りていない人のギャップは必ず存在する。それをインターネット上のマッチングですべて解決できるかというと、難しいのが現実です。もちろん、テクノロジーが変われば仲介の方法は変わります。
石野:どのようなケースで金融の仲介機能が不可欠なのか、具体的に教えていただけますか。
上ノ山:たとえば、国際情勢の影響でモノが作れなくなるとします。会社は売る商品がなくなるわけですから、当然お金が足りなくなりますよね。そこで、これまで「信用」を蓄積している我々だからこそ「この会社は国民経済において存続が必要だ」と判断できますし、赤字になっても歯を食いしばって運転資金を提供し続けられるんです。
同じことをブロックチェーンの個人の世界で本当にできるでしょうか。「既存の金融機関はコストが高い」といわれることもありますが、取引には決済も必要ですし、預金を集めて貸し付けを行うための見る目も必要。俯瞰して議論をする必要があると感じています。
石野:では、みずほフィナンシャルグループとして今後はどのような領域に踏み出していきたいと考えているのでしょうか。
上ノ山:仲介業から大きく外れた姿は、個人的には想定していません。しかし、仲介の仕方は大きく変わっていくでしょう。従来は資金を集めて融資することが中心でしたが、産業育成という観点はバブル崩壊後ずっと欠けていた。古くは明治維新で銀行という業態が生まれ、国策に従って日本の産業にお金を配分し、産業を育てる役割を担っていました。そして、ある程度形になったら資本を抜いていくという循環を、もう一度この国に根付かせるべきだと考えています。
経営が業務を学び、現場は戦略を語れるように
石野:AI時代、リスクとチャンスをどう見ていますか。
上ノ山:変わらないことがリスクですよね。我々は「安全・安心・安定」が存在、そして信頼の礎となっている。当社の雰囲気として「変わらないこと」「変えないこと」が大事な価値観のように思われているかもしれません。それこそがリスクなんです。一方で、ポテンシャルのある人材が揃っているのも事実。本当に我々が変わることができるのであれば、さまざまなチャンスが広がっていると思います。

石野:ありがとうございます。最後に読者の皆さんにメッセージをいただけますか。
上ノ山:これまでの経営に関する議論は、戦略からせいぜい組織まででした。環境変化が緩やかな時代は、戦略さえ間違わなければなんとかなった。しかし、それだけではおぼつかなくなり、組織の次は人材だといわれるようになりました。そしてAI時代、具体的な業務プロセスまでも考慮する必要がある。
従来、業務プロセスは現場に委ねられてきました。しかしAI時代では、業務プロセスが戦略を変え得るのです。戦略・組織・人材・業務プロセスが連携した形で経営ができない会社は、生き残れなくなると思います。
だからこそ、業務プロセスの領域にいる人たちは専門性を高めるだけでなく、戦略的・俯瞰的に物事を見る目を養ってほしいです。そうすることで、本当に新しい企業経営が成り立っていく。経営者は業務を学び、現場は戦略を語れるようになる。その両方が求められるのです。
