オペレーション作りは得意なのになぜ? 労働生産性G7最下位の日本
藤井(AIdiver編集部):倉本さんといえば、これまでマッキンゼーで営業生産性の向上に取り組んでこられました。最近では、パーソルホールディングスに転じられましたよね。
倉本由香利氏(以下、倉本):マッキンゼー時代は、一貫して製造業とその周辺領域のサービスを中心にコンサルティング支援をしていました。また、コスト削減以上に事業を成長させることが好きだったため、営業改革を中心に取り組んできました。国内外の企業20社以上の営業改革に関わってきたのですが、実際に自分が手掛けたいという想いもあり、パーソルホールディングスに入社することに。2023年頃から生成AIが浸透し始め、AI×生産性の向上に向き合える場所を探していたときに出会ったのです。
藤井:今回のテーマも「AI×生産性」です。倉本さんはマッキンゼー時代に執筆されたレポート『日本の営業生産性はなぜ低いのか』が話題を呼びましたが、そもそもどういう問題意識をもたれていたのですか。
倉本:マッキンゼーでは営業改革プロジェクトを始める際、必ず初期診断を行います。その中で「営業ROI(投資対効果)」を測って社内のベンチマークと比較する作業がありますが、日本企業はグローバル企業のベンチマークよりも低いのです。
営業活動における投資とは、営業にかかるあらゆるコストを指します。それに対して何を効果と定義するかはよく議論されますが、私たちは「粗利」だとしています。なぜ売上ではないのか。高く売って利益を上げることを営業自身が意識しなければ、稼げない時代だからです。コストに対してどの程度の粗利が稼げるかを分析すると、どの業界でも日本企業の数字が世界平均より低い。この状況が『日本の営業生産性はなぜ低いのか』を執筆するきっかけになりました。
パーソルホールディングス株式会社 執行役員 CPrO 倉本由香利氏
2004年~マッキンゼー・アンド・カンパニーでBtoB営業・マーケティングのリーダーとして営業改革、グローバル成長戦略等を支援。現在パーソルホールディングスで営業生産性改革を推進。
藤井:日本はルール作りやオペレーションの構築が得意なイメージは強いですが、それは生産性向上に結びつかないのでしょうか。
倉本:特に製造業の現場では、これ以上ないというほど生産性が高いです。ところが、営業となると製造現場ほどの管理が徹底されていない企業が多い。日本企業ならできるはずですが、まず見える化がなされていません。
たとえば、既存システムの上にさらに新たなシステムを乗せ続けた結果、営業がいくつものシステムにデータを入力しなければならないケースは珍しくありません。また、日本は意思決定に時間がかかる傾向があるため、一つの営業案件で何度も何度も訪問します。さらに、1回の訪問で同行する人数も多い。もちろん、日本企業ならではのおもてなしは良い点です。営業担当が、顧客のためにかなりの時間を使っています。しかし、必ずしもすべてが売上に直結するわけではありません。
このような要素が、日本の営業生産性を下げているのです。製造現場のような改革力を同じように営業分野にも発揮していけば、もっと生産性は上がるはずです。
藤井:これまで営業生産性にフォーカスされてきましたが、パーソルホールディングスではCPrO(最高生産性責任者)に就任され、全社的な生産性向上に取り組まれていますよね。
倉本:そうですね。営業に限らず、日本の労働生産性はG7(主要先進7ヵ国)で最も低い水準にあります。さらに、少子高齢化で労働人口の減少が進んでいる状況です。AIによる生産性向上が期待されている一方で、その効果よりも労働人口が減るスピードのほうがしばらくは速い可能性があります。こうした状況を変えるために、CPrOという立場の方がもっと増えてほしいですね。
藤井:あまり聞きなじみがない役職ですが、設置のきっかけはなんだったのでしょうか。
倉本:パーソルグループは以前より人的資本経営を重視してきました。一方で、生産性という点ではまだまだやりきれていない。これは当社だけでなく人材業界全体の課題なのです。たとえば、工場やソフトウェアなどを主な資産とする企業と比較すると、人材を事業上の主な資産とする企業の場合は、その性質上、生産性を高めづらい面があります。人材を社会に供給する役割を担っているパーソルグループにとって、日本の労働生産性の向上は取り組むべき社会課題の一つです。社内の生産性を上げるとともに、社外の生産性向上にも資するようなサービスを提供していく。そのために、CPrOの設置を決めました。
