日本市場に80億ドル投資 イノベーションを加速
2026年4月16日、「Oracle AI World Tour Tokyo」が開催された。基調講演に登壇した日本オラクルの三澤智光社長は、日本国内における「分散クラウド戦略」の進捗を報告した。三澤氏は、野村総合研究所や富士通、NTTデータらに加えて、新たにソフトバンクや日鉄ソリューションズとの協業が開始されたことを強調。データ主権に対応した「Oracle Alloy」の展開や、24時間365日の国内サポート体制を敷く「ジャパン・オペレーション・センター」の開設により、日本のミッションクリティカルなシステムを支えるソブリン体制が完備されたことを示した。
続いて登壇したオラクル・コーポレーション CEOのMike Sicilia(マイク・シシリア)氏は、前日に高市早苗首相と面会し、日本への80億ドルの投資を再確認したことに触れ、日本市場への強いコミットメントを表明した。精密さや品質、長期的な思考を重視する日本企業の姿勢は、AIをミッションクリティカルなプロセスに導入する上で特別な強みになるとし、日本でのイノベーション加速の姿勢を示した。
シシリア氏が掲げるのは、単なるアシスタントを超えたエージェンティックなAIへの進化だ。従来のAIがテキスト生成などの個別タスクを補完する存在だったのに対して、AIエージェントはビジネス目標を達成するために自律的にワークフローをオーケストレートする。すでに「Oracle Fusion Applications」には多くのAI機能が標準実装されているという。
また、基調講演内でシシリア氏は、データ主権(ソブリン)の再定義を行った。現代における主権性の最低条件は、単にデータを国内に置くだけでなく、現地の運営者(ローカル・オペレーター)が実際にクラウドやアプリケーションを管理・運用することにあるという。オラクルは、パートナーが自ら運営できるOracle Alloy等の提供を通じて、この比類なきセキュリティとガバナンスを実現する考えだ。
ソフトバンクが進める「ソブリンAI」と公共インフラ
基調講演では三澤氏と事例企業との対談セッションも行われた。まず登場したソフトバンクの常務執行役員 丹波廣寅氏は、AIを「デジタル公共インフラ」と定義。日本独自のAI環境を構築する意義を強調した。
丹波氏によれば、かつてのデジタルサービス開発がフルスクラッチを強いられたのと同様に、AI時代においても共通項目となる社会インフラの整備が不可欠であるという。その核心となるのが、国や企業、個人が自らの意思でデータを管理・決定するソブリン性の確保だ。技術、運用、データのすべてにおいて自ら主権を持ち、自国に適した法規制を受ける環境こそが、今の日本に求められていると語る。
この主権性を担保する具体的な手段として、ソフトバンクは「Oracle Alloy」を採用した。これにより、自社の管理下にあるデータセンターでクラウド運用を可能にし、地政学的リスクを抑えつつ、機微な情報を扱える「ソブリンAI」の実現を目指している。従来の一般的なクラウド利用では、機密性の高いデータを外部に出せないことがAI活用の大きな障壁となっていたが、主権性が確保された安全な環境を構築することで、この「壁」を打破できるという 。
丹波氏は、これまで「取り出せなかったデータ」が活用可能になることで、企業のコスト削減にとどまらない新たなサービス開発や企業活動の活性化が期待できると述べた。自らが活動主体となり、日本国内で完結するデジタル基盤を稼働させることは、デジタル赤字の解消や海外への過度な依存を削減し、日本の経済活動における自律性を高めていくことにつながる。
JTBが描く経営OS——「骨格」のERPと「神経」のAI
続いて登壇したJTB 取締役 常務執行役員 財務担当(CFO)の沖本哲氏は、コロナ禍という経営危機を、財務のリーダーシップと「Oracle Fusion Cloud ERP」による経営基盤の刷新によっていかに乗り越えたかを共有した。ご存知のとおり、コロナ禍の移動制限によって大打撃を受けたJTB。この状況に対して沖本氏は財務三表の定点観測やバランスシート起点の意思決定、そして有事における財務ガバナンスの統合を徹底したと話す。危機を乗り越え、次なる成長フェーズにおいて引き続き財務がリーダーシップを発揮するためには、統合された経営基盤の整備が不可欠であると判断し、戦略的にERPの導入を決断したとのこと。
沖本氏は、AI時代における経営基盤の役割を人体に例え「ERPは骨格であり、AIは神経である」という独自の概念を示した。「Fit to Standard」を徹底して整備されたERPという「骨格」の上に、AIという「神経」を重ねることで、異常値検知や業績予測を迅速に行う。これにより、組織としての意思決定能力、すなわち「経営の反射神経」を実装することがJTBの目指す姿だ。
最後に「SaaS Is Dead」にも話が及んだ。沖本氏は、SaaSは終わるのではなく「AIを支え実装する経営のOSへと進化する」と話す。今後は日本オラクルとの共創を通じ、単なるシステムの導入を超えて、価値創造というアウトカムに責任を持った相互関係を築いていく方針だ。
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AIdiver編集部(エーアイダイバーヘンシュウブ)
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