「どこで・どう使われているか」──岩澤有祐氏がダッシュボードの分析イメージを提示
松尾氏の説明に続き、同研究室の岩澤有祐准教授がダッシュボードの分析イメージを紹介した。「今回は分析の結果というより、どういった切り口での分析ができるかをお伝えできれば」と前置きしたうえで、複数の視点から実例を示した。
第一の切り口は職業別のAI利用率だ。コンピューター数学や芸術・メディア系の職種ではグローバルと概ね同等の水準(指数1.0)で利用が進んでいる。一方、医療従事者や飲食業ではグローバルを下回る傾向が確認された。職業分類は大分類から詳細へと掘り下げることも可能で、たとえば「コンピュータープログラマー」の中でも既存プログラムの拡張ではAIが活用されている一方、エラー修正・検証の工程では利用が低いといった実態まで捉えられる。
第二は地域別分析だ。都道府県ごとの労働人口あたりAI利用量を可視化すると、現状では東京をはじめとする首都圏への集中が顕著で、地方への普及はまだ限定的であることが分かる。各都道府県内でどの業種・職種での利用が進んでいるかという詳細なメッシュ分析も可能だという。
加えて時系列分析も可能で、一定期間を比較することで日本の立ち位置の変化を追跡できる。自律度(どれだけ複雑・難易度の高いタスクをAIに委ねているか)の指標では、日本がグローバルでトップ水準にあるというデータも示された。「丸投げせず慎重に利用している傾向があるのではないか」と岩澤氏は読み解く。これらのダッシュボードは今秋頃の正式公開を予定している。
未来の「働く」は4類型へ──消滅ではなく変容
PKSHA Technologyの大野紗和子氏はデータ分析の前に、AIが雇用に与える影響についての独自のフレームを提示した。「AIが人の仕事を奪っていくのではないかという声があちこちで聞かれる」現状に対し、大野氏は「仕事が残るか消えるかの二択ではなく、未来の働くは4つの類型に分かれていく」と切り出した。
よく議論されるのは「AIが実行することで縮小していく従来の仕事」と「変わらず残る仕事」の2類型だが、大野氏が重視するのはそれ以外の2つだ。AIによって新たに生まれる仕事と、AIによって形を変える仕事──後者を大野氏は「AIパワードワーカー」と呼ぶ。
「多くの仕事は実際にはAIによって消失するのではなく、AIが人の能力を拡張したり解放したりしながら、新しい形にアップデートされていく。これこそが未来の働き方ではないか」と大野氏は語る。この考えを踏まえた上で、続けて日本独自のAI利用パターンに触れた。「日本のAI利用は世界と『形』が違う」と指摘し、その特徴について説明したのが大野氏のメッセージだ。
職種別のAI利用タスクを日本とグローバルで比較すると、多くの職種で共通のパターンが浮かび上がった。IT・教育・営業のいずれにおいても、技術資料の参照や講義準備、商談準備といった「考える仕事」での利用比率はグローバルを上回る一方、既存ソフトの改修や授業外の学習補助、顧客対応といった「動かす仕事」では下回る。設計・準備段階でAIを活用しながら、実行・実装の工程では人手に戻る──これが日本固有のパターンとみることができる。
「戦略を考えたり、分析したり、準備したりといった『考える業務』では世界と比べて比較的多く使っている一方、AIを使って実行する・対応する・実装するといった部分ではあまり使われていない」──この現象を、大野氏は単純な遅れとは見ていない。「日本社会の特徴を反映した結果ではないか」という立場だ。
この分析の背景には3つの企業特性があると大野氏は指摘する。高い業務固有性と低い雇用流動性による暗黙知化、現場を巻き込んだ自分事化の困難さ、そして企業のセキュリティポリシーへの準拠だ。「汎用AIだけではなかなか手が届かない領域が多い」と率直に認める一方、「他国の成功事例の拙速な模倣は、企業や組織の持つ見えない価値を壊しかねない。日本固有の競争優位を活かすことが求められている」と強調した。
