日立のAX、昨年までとの違いは……
博報堂DYホールディングス CAIO 森正弥氏(以下、森):以前からAX(AIトランスフォーメーション)には取り組まれていますが、現在地はいかがですか。
日立製作所 吉田順氏(以下、吉田):AIを主軸にしたDXが本格化したのは「Lumada」を立ち上げた2016年頃から。2018年には「データサイエンティストを3,000人育成する」と宣言しました。
ただ、適用先は予兆検知や画像解析がメインで、当時それらの技術を活用するユーザーは専門領域に限られていました。その中で、2023年に「Generative AIセンター」を立ち上げたことをきっかけに、生成AIやAIエージェントを活用して当社全体を変革していく方針に変わってきたんです。それから今年で4年目を迎えました。
昨年までを振り返っても、現場の生産性は大きく上がっています。たとえば、保守業務にAIエージェントを導入したことで効率が大きく上がりました。また、システムエンジニアやデータサイエンティストなどの若手の育成スピードも上がっています。もちろん、間接業務の業務効率化も格段に進みました。
森:「データサイエンティスト3,000人育成」という目標を掲げられたのは2018年ですが、この数年で生成AIが普及し、データサイエンスのあり方に変化はありましたか。
吉田:データサイエンスを突き詰めている人って、やっぱりいるんです。ディープラーニングを極めていたり、データサイエンスの世界大会に出場していたり。その世界と比較すると、今の生成AIやAIエージェントはすでにあるAI基盤をどう使うか、つまりアプリケーション開発の要素が強いです。それもあって、データサイエンティストに求められるスキルはかなり拡大している印象です。
しかし、彼らはAIモデルの基礎や原理を理解しているからこそ、アプリケーションの開発やチューニングが速くできる。最初は「自分たちの専門領域とは異なる」という声もありましたが、今では楽しんで取り組んでいるように見えます(笑)。
森:予兆検知などの分野では、昔からAIが活用されてきました。それに加えて、生成AIでアプリケーションがどんどん作れるようになっている。そうすると、できることも広がっていきますよね。
吉田:そうですね。従来の手法もアップデートはしています。そのうえで、AI技術の進展もあり合成データが作れるようになったため、データサイエンスやデータアナリティクスの精度が大きく上がったんです。たとえば、以前は何が原因で部品に傷がつくのか調べるために、実際に傷がつくまでずっと待っているケースもありました。それが今なら合成データで検証ができます。
そのための環境を整備する意味でも、NVIDIAと協業を拡大しています。同社の産業用エッジプラットフォームを鉄道車両に搭載し、いわば「走るデータセンター」のような取り組みを進めたり、ロボットにAI基盤モデルを組み込んだりと、さまざまな試みを行っているのです。
森:まさにフィジカルAIですね。
吉田:2026年からは、やはりフィジカルAIの時代。鉄道の自動運転にも挑戦していますし、電力の制御にもAIを導入しています。また、海外工場では保守業務に犬のような多脚型ロボットを数十台活用しているところもあります。国内でもそうしたロボットを導入しながら、保守業務の効率化を進めているところです。
これまではAIエージェントを活用して暗黙知を形式知化しながら、熟練者のナレッジを溜めることにフォーカスしきました。その取り組みは続けながらも、現在は注力領域がフィジカルAIへと拡大し、熟練者の動きをAIに学習させて各所に導入していくフェーズに入っています。
フィジカルAIの活用を進める中で、ロボットなど機器の調達にかかるコストや学習にかかる時間も減っています。 当社が「カスタマーゼロ」として積極的に社内で試して、クライアントへの説明や展開も進めている状況です。
