組織として遅れている。自覚から始まったカインズのコンタクトセンター改革
──カインズさんは2018年の「IT小売宣言」以降、デジタル投資を積極的に進めてこられました。コンタクトセンターのIT化はどのように始まったのでしょうか。
カインズ 中村康人氏(以下、中村):私が入社する2年前、2020年にセールスフォースのCRMとAmazon Connectを導入しました。これがコンタクトセンターとしてのIT化のスタートラインです。
今から6年前ですから、正直、組織として遅れているという自覚がありました。だからこそ早く追いつかなければいけないというスピード感があって、それがプラスに働いた面はあると思います。
──中村さんご自身は、どのような経緯で入社されたのですか。
中村:2021年に「コンタクトセンター改革プロジェクト」が始まりまして、その一環として採用されたのが私です。2022年2月の入社になります。私は2004年にオペレーターとしてこの業界に入り、20年間コンタクトセンターの仕事を経験してきました。
BPOだけでなく、事業会社が内製しているコールセンター業務も経験し、システムのリプレースも何度かやってきた。ホームセンターのコンタクトセンターが抱える慢性的な課題は、体感的に理解していました。今までのキャリアを期待されての入社でした。
──20年の経験から、コンタクトセンターの課題はかなり高い解像度で見えていたということですね。
中村:そうですね。たとえば「電話を減らすには、ノンボイスでチャットを入れればいい」と言われ続けてきましたが、結局、チャットで問い合わせる人は増えても電話は減らない。ボイスで解決しなければいけないことは、ボイスでしか解決できないのです。では、そこをどう自動化、無人化していくのか。
生成AIに触れたとき、いずれテキストからボイスに広がって、ボイスボットで解決できるようになるイメージがもてました。だからこそ、今のうちに使いこなして熟成しておかないと、いざという時に追いつかないと思いました。
知識はAIに、人は会話に。キャリア20年以上のプロが描く「電脳化」の組織論
──ツール導入後も期待したほどの成果が出ず、縦割り組織の解体や評価制度の再構築といった「人と組織」の改革に取り組んだ経緯は、以前のメディア取材でも語られていました(※1)。そうした改革と並行して、生成AIをどのような位置づけで導入していったのでしょうか。
中村:なるべく人を増やさずに、拡大する事業への貢献を上げていくというミッションがあります。そこで私がよく使う言葉が「電脳化」です。知識をすべて人の頭の中ではなく、クラウド上に置いてしまって、人が取り出しやすくする。そうすれば、一定のコミュニケーションスキルをもっていれば高度な顧客対応が行える環境を作れます。
オペレーターには顧客対応のクオリティを上げてほしいし、人にしかできないことをやってほしい。その代わり、知識面は便利なツールをどんどん導入して負荷を減らしていく。この2極化を進めたいというのが根底にあります。
生成AIもだいぶ洗練されて機能が良くなってきているので、エージェントを構築してオペレーターを支援する体制を整えつつ、人は最低限の増員で効率を上げながら多くの電話を取っていくことを目指しています。
──とはいえ、オペレーターのあいだでAIを使いこなせる人と、そうでない人の差は生まれませんか。
中村:正直、その差は多少生まれます。パソコンが普及して20年以上経ち当たり前になっても、上手な方と不得意な方がいますよね。AIも、その境界線はいつまでたってもなくならないと思います。不得意な方のスキル底上げをどう実行していくのかが、マネージャーの役割です。
今のAI活用の文脈では個人に責任が委ねられがちですが、コンタクトセンターは個人の活躍だけでは回りません。気がついたら当たり前のようにAIを使っている、という環境を組織として作れないと、人が介在しているコンタクトセンターというモデルでは、うまくいかないと思います。
──AI活用が進むほど、人のオペレーターに求められるものも変わりそうです。
中村:コンタクトセンターの業界で言えば、人間と話したいというニーズは必ずあります。むしろ、そのニーズに応えられる人材が求められてくると思います。だからこそ、コミュニケーションのスキルを極めていってほしいと考えています。
知識面はAIが助けてくれるので、そこはAIに頼るとして、オペレーターはお客様とお話をして「この人と話せてよかった」と思われる人材になるべきです。コンタクトセンターのプロに求められるのは、そういう要素になっていくと思います。
※1:ITmedia ビジネスオンライン「カインズのコンタクトセンター改革 『投資したのに効果ナシ』から脱却できたワケ」(2025年3月26日)
