他社事例を待っていたら遅い。生成AIの衝撃が、経営層への提案につながった
──生成AIには、どのタイミングで注目されたのですか。
中村:2022年11月にChatGPT 3.5がリリースされて、すぐに日本でも話題になりました。私も触ってみて、これはコンタクトセンターの業務が変わるぞ、と衝撃を受けました。
これを使えば、今悩んでいる課題が結構解決できるんじゃないかと。それでまず個人的に触り始めて、2023年3月には経営層に「生成AIをどうするんですか」という話を始めました。
──経営層の反応はいかがでしたか。
中村:カインズは小売業として先進的な取り組みを進めていますが、投資にあたっては成果につながるかどうかを重視しています。「他社の事例なども参考にしながら、実際に活用できると確信できた段階で導入していこう」という考え方です。
でも私は「恐らく生成AIは普及します。他社の成功事例を見てからだと遅いですよ」と押し返しました。
──最終的に経営層を動かしたのは何だったのでしょうか。
中村:数字です。役員からも「1番説得力があるのは数字だから、ROIを示しなさい」というフィードバックをいただきました。そこでコンタクトセンター領域でAIが解決できそうなことをリストアップして、当時の情報で実現可能性をランク付けし、実現できた場合のリターンを計算して出しました。
正直、皮算用の部分もありました。ただ、多少風呂敷を広く言っても、始めることに意味があると個人的には思っていたので。今振り返れば、数字だけでなく、自分事として押し通そうとする意思があるのかを試されていたんだと思います。
チャットボットはお蔵入り。「使われないAI」を蘇らせた要約の二刀流
──導入したAIツールについて教えてください。
中村:作業を分類するプロセスを経て、1番やる意味があると判断したのが2つ。履歴登録などの後処理に直結する要約と、オペレーターを支援するナレッジ支援チャットボットです。
PoCを経て、両方とも本導入を決めました。ところが、ナレッジ支援チャットボットは今はもうお蔵入りになっています。
──何が原因だったのですか。
中村:ナレッジが圧倒的に不足していたことです。ホームセンターはプライベートブランドとナショナルブランドを合わせて数十万点の商品を扱っています。コンタクトセンターでも、同じ商品への同じ質問は何年に1回あるかどうか。広く深く答えられないと役に立たないんです。
私たちはRAG(検索拡張生成)の技術を勉強するなど、試行錯誤の上での取り組みだったのですが、「そもそも今提供できるデータでは課題は解決しない」と確信がもてたので諦めました。今じゃない、という判断です。
──要約ツールの方はいかがでしたか。
中村:PoCでは「人間がやるのとほとんど変わらない」と確認して導入したのに、オペレーターがあまり使ってくれない。ヒアリングしてわかったのは2つの問題でした。
1つは、要約されると意味は残るけれど、お客様が何と言ったかが、具体的に残らないこと。お褒めの言葉やクレームの生の表現を、受け取る側の担当部署は欲しがるんです。もう1つは、文字起こしの精度が100%ではないので、その誤りをもとに要約されると修正点が多くなる。
声も残っていない上に要約としても中途半端、まさに帯に短したすきに長しで、オペレーターは使えないと判断してしまっていました。
──どう改善されたのですか。
中村:要約を2つに分けました。通常の後処理は構造化要約に振り切って、意味を端的に残す。これで修正の必要が減って、そのままコピーできるようになり、利用率が上がりました。
一方で、お客様のニュアンスを残したい場合のために、お客様が一人称で語ったように要約するプロンプトを別途作って配りました。長時間対応などの必要な時だけ、手作業でそちらを使ってもらう。完全に2つに分けたことで、一旦利用率を高めて改善できました。
