社内システムの刷新が難しい現実 最適解は
営業店やATMをもたず、さらにキャッシュカードの発行も行っていない。そんな個性的な業態でコストを可能な限り抑え、オンラインで金融商品やサービスを提供しているオリックス銀行。昨年末時点で社内システムの約9割をクラウド化するなど、着実にDXを進めてきた。そして次にフォーカスしているのがAIだ。
同社は昨年より「AIファースト戦略」を定め、AI-Readyなデータ整備、各領域でのAI推進に取り組んでいる。内製重視の方針から、AIエージェントの開発基盤を確立し本格的な開発・育成に駒を進めた。
その中でぶつかった壁を、「AWS Summit Japan 2026」に登壇したオリックス銀行 システム第二部長 高橋裕樹氏が語った。AI推進によって表面化した課題は大きく2つだ。
1つがシステムのサイロ化である。クラウド化戦略によってDXが進んだものの「各部署で使っているシステムが異なる」「一つの業務を完了させるために複数のシステムを行き来しなければならない」といったケースが少なくなかった。
そして、もう1つが生成AIワークフロー構築にかかるリソースと時間。カスタマーセンターの付帯業務を代替するワークフローを内製したことで、電話対応後の作業時間が大幅に削減し生産性が向上したが、開発にはかなりの工数を要した。得られるメリットは一定ある一方で、社内で横展開しようにも体力が残っていないのが現実だ。
こうした状況を受け入れた上で、どうAI活用を推進するか。その現実解として、オリックス銀行ではiPaaSプラットフォーム「Workato」の導入を決めたという。Workatoと同プラットフォーム上で動くAIエージェント「Genie」をハブに、社内のデータと使われている各サービスの“連携回路”を構築する形だ。これを基盤に、営業のアシスタントをするAIエージェントなどを内製している。
「Genieに指示出しをすることで、人の代わりに各システムを操作して回答してくれる。将来的にはUIがいらなくなるかもしれない。コンセプトは『いかに人間が操作しなくていい世界を作れるか』だ」
また、AWS Cloudに置いてあるデータをWorkatoが読み取りやすい形に整え、かつSnowflakeのようなデータ基盤に流し込むことで、データのパイプラインを短期間かつローコードで作れる。AIエージェント開発のベースが整備されるというわけだ。そうすると、Workatoが動けば動くだけ社内データが循環し、データ基盤に蓄積され、結果的にデータ品質が向上するサイクルが生まれるという。
本講演の終了後、同氏にAIエージェントの開発・運用方針を深掘りした。
金融はまさに「ヒューマン・イン・ザ・ループ」そのもの
──「いかにシステムを操作せずにタスクを完了できるか」という話もあったが、理想像は。
オリックス銀行 高橋裕樹氏(以下、高橋):人とAIがともに働く「協働」を目指している。最近ではAIエージェントだけで構成される組織や、AIエージェントとの起業も現実的になってきたが、通常の銀行業務にそのまま適用するかについては、信頼性の観点から慎重に判断する必要がある。一方で、システム開発の領域では、一人のエンジニアが複数のAIエージェントを使って簡単な内製開発を行う例も増えてきた。
──領域によって、AIエージェントを実装できる範囲が異なると思うが、特に何に期待しているか。
高橋:バックオフィスは非定型業務も少なくないため、今までシステム化できずに属人化している業務がある。まずは属人化をなくすきっかけとして、AIエージェントが使えるのではないか。
また、営業をはじめとするフロント業務では、AIエージェントによって本来の業務に集中できる環境を整えていきたい。実際のところ、営業担当者は営業だけでなく事務作業に時間をとられているケースも多い。それらをAIエージェントがうまく巻き取りたい。
銀行をはじめとする金融機関は、AIの活用に非常に向いていると思っている。実施者が実施印を押し、確認者が確認印を押す「再鑑」の文化が根付いているが、この確認作業はまさに「ヒューマン・イン・ザ・ループ」そのもの。AIのアウトプットは、最後に必ず人間が判断すべきとよくいわれるが、金融機関は最初からその考え方が染みついている。そのため、全社的に大きな抵抗感は少ない。一方で、部署によって一定のハードルもあるようだ。
ただし、勘定系システムで、取引を確定させる作業をAIエージェントに任せることは現時点で難しい。しっかりとテストされたルールベースで動くプログラムで、取引の正当性が担保されている世界であるため、結果が合っていても過程がよくわからない状態は避けるべきだろう。
