「組織知を持ったAI」が日本の解──暗黙知のデータ化が鍵
解決策として大野氏が示したのは「組織知を持って伴走するAI」「人のサポートによる組織文化の醸成」「プライベートなAI実行環境の構築」の3点セットだ。
製造業での実例として、音声対話によるベテラン社員からの暗黙知の引き出しとデータ化、そこに蓄積された組織知を持ったAIが若手・中堅の「先輩」として伴走するモデルを紹介した。ITシステム開発でも同様に、既存コードを理解したうえでベテランの知識を吸収したAIが、設計から実装・テストまでの全工程を横断的にサポートするという事例が示された。
「AIを使うべきというサプライヤーロジックでは現場は動かない。人による組織支援とセットで進めていく必要がある」という指摘は、多くの企業IT担当者が直面する課題を突いている。
観測基盤は「ファクトで議論する社会」の触媒に

今後の展開として、初回レポートは今年10〜11月頃のメディア報告会での発表を予定。業界リーダー10社程度とのラウンドテーブルも立ち上げる計画だ。冒頭に、Anthropic Japanの代表執行役員社長の東條英俊氏はビデオメッセージで「AIの利用実態に基づいた政策・経営・人材育成の議論を促し、AIが一人ひとりの可能性を広げる社会につながることを期待している」と述べた。
AIが産業・働き方をどのように変えているか、その実態を日本独自の文脈でデータ化する試みは、日本発のAI社会論の基盤になりうる。3者連携の観測基盤が、「データに基づかない空中戦の議論」(松尾教授)になりがちなAI議論をファクトに引き戻す触媒となれるか、注目したい。
