「AIにできることと、実際に人々の役に立っていることの間には、広がり続けるギャップがある。このギャップを埋めることが、私たち全員にとっての機会だ」──Anthropicが2026年6月10日に東京で開催した開発者向けイベント「Code w/Claude 2026 Tokyo」の基調講演で、同社のKatelyn Lesse氏はこう切り出した。同イベントの日本開催は初めてとなる。基調講演の数時間前に発表された「Claude Fable 5」「Claude Mythos 5」を軸に、同社はモデル、プラットフォーム、プロダクトの3層にわたる戦略を示した。一般ユーザーが主に触れるのはセーフガードを備えたFable 5で、同社はこれを一般提供モデルとして史上最高性能と位置付けている。

Claude Fable 5は一般提供で史上最高性能──危険領域は別モデルへ切り替え
基調講演の主役は、発表されたばかりの新モデルだった。説明に立ったのは、リサーチ部門でプロダクトを担当し、Claude 2以降のすべてのバージョンに関わってきたというDianne Penn氏だ。
氏の説明を整理すると、Fable 5とMythos 5は同一の基盤モデルを共有する、新しいモデルクラスの第1世代である。両者を分けるのは、セーフガード(安全対策)の有無と提供範囲だ。セーフガードを組み込んですべてのユーザーに一般提供するのがFable 5、セーフガードを適用せず承認済みパートナーに限定して提供するのがMythos 5、という関係になる。日常の業務で利用するのはFable 5が中心で、Mythos 5は研究機関など限定的な用途向けだ。
コーディング性能について、Penn氏はベンチマークのスコアよりも実タスクでの差を強調した。「タスクが長く、複雑で、高度になるほど、Fable 5と他のあらゆるモデルとの差は開いていく」。その差を生む要因として氏が挙げたのが、一度の指示で複雑な問題を仕上げる力と、単一のゴールに向かって数日間走り続けても一貫性を保つ長時間の自律性だ。長大な仕様書や会話履歴を忘れずに扱える規模のタスクでも仕様を記憶し続け、分担用の下位AIを派遣して軌道に乗せ続けられるとした。
コーディング以外でも、財務分析や文書、スライド、スプレッドシートといった実務を最初から最後まで一気通貫で処理できるとし、高密度の技術画像や図表を読み取る画像理解能力は「業界最高」とした。
一方でPenn氏は、この水準の知能が「両刃の剣」であることにも踏み込んだ。2ヵ月前に少数のパートナー限定で公開されたClaude Mythos Previewは、サイバーセキュリティ分野の能力が悪用されかねないほど強力だったため、一般提供を見送った。同社は新たなセーフガードシステムを構築し、同じ知能をFable 5として一般提供にこぎ着けた。サイバーセキュリティや生物学、化学といったトピックに触れるリクエストは、より厳格に制御された高性能モデル「Claude Opus 4.8」へ自動的に切り替わる。同氏はこの切り替えの仕組みはまだ完璧ではないと認め、「正当な研究を行っている研究者が、ときに弾かれてしまうこともある。改善を続けている」と述べた。Fable 5のセーフガードも、提供開始後も更新を重ねており、一般提供モデルとしての運用を前提に改良が続いている。
Mythos 5は、このMythos Previewの系譜を直接受け継ぐ存在で、その能力の「一歩先」にあるとPenn氏は位置付けた。Fable 5に組み込まれたセーフガードは適用されず、承認済みパートナー向けの限定プログラムを通じて提供される。今月後半にはライフサイエンス分野の研究者の受け入れも拡大する。
他社の評価も示された。コーディングエージェント「Devin」を手掛けるCognition AIは、自社のフロンティアコーディング評価でテストした全モデル中で最高スコアだったとし、長期的な推論能力と未知のツールへの汎化を挙げた。
