企画から制作まで4~5年……AIがアニメ業界を救う?
藤井(AIdiver編集部):いまの日本のアニメ業界が抱える構造的な課題を、率直に教えてください。
株式会社ディー・エル・イー 代表取締役社長 小野亮氏(以下、小野):まず、海外へ発信する独自の強いチャネルを持っていないこと。日本アニメの需要は海外で高まりつづけているにもかかわらず、Netflixなどの大型プラットフォームに供給ルートの大部分を握られています。マネタイズの出口を押さえられているだけに、日本のアニメ会社や制作現場の利益になりづらい構造なのです。
また、アニメ業界に限った話ではありませんが、やはり人手不足は深刻です。少子高齢化に加え、「現場が過酷」「低賃金で重労働」といったイメージが、若者をアニメ業界から遠ざけています。
業界で働く方々の賃金は、10年ほど前より1.5倍程度になり、だいぶ改善されてきました。ただ、格差があって、海外へ直接コンテンツを展開できる企業は潤沢な資金を持つ一方、中小規模のアニメ会社は依然として厳しい状況です。昨年は倒産件数もかなり増え、作品制作の順延も多発するなど、現場はかなり混乱しています。
藤井:日本のIPを維持するには改善が不可欠だと思いますが、どこから手をつけるべきでしょうか。
小野:一枚一枚の絵を描く労働集約型の性質は、伝統工芸のようなものであり、変えることはなかなかできません。問題は、その“仕組み”が古いことです。日本のテレビアニメが始まって以来、ワークフローや組織は基本的に変わっていない。現場ごとのデジタル化は進んでも、制作の流れ自体は昔のままで、コミュニケーションコストがかかりすぎているんです。つまり、クリエイティブにAIを使う前に、プロセスをAIで軽くすべきだといえます。
藤井:「AI×アニメ」と聞くと、キャラクターを作ったりイラストを描いたり、どうしてもクリエイティブへの活用のほうがイメージしやすいです。
小野:そうですね。実際、昨年頃より、米国や中国の企業から「AIでアニメを作るツールを使いませんか」という話をかなりいただいています。しかし、昨年時点では、テレビアニメに使えるかと聞かれると心許ないレベルでした。
ただ、AIの技術は日進月歩で、この春に実際に見せてもらったツールは「本格的に使えるかもしれない」という期待が持てる段階まで進化していました。たとえば「中割り」という動きの前後をつなぐ中間の絵を埋める工程は、いまAIでかなりできるようになっています。
中割り(なかわり)とは
原画と原画の間をつなぐ中間の絵のこと。キャラクターの動きを滑らかに見せるために描かれる。従来はアニメーターが手作業で仕上げてきた工程で、枚数が多く負担も大きい。
小野:しかし、それを導入したからといって、コスト圧縮にはさほどつながらないというのが現実です。アニメ業界の本当の問題は、企画から放送までの期間が非常に長いこと。形になるまでに4年、下手をすれば5年という話もあります。このタイムラインを短くするには、間で何度も行われる会議や意思決定のプロセスを短縮しなければ。かかる時間が縮まれば、その分の人件費なども削減できます。作画よりも、コミュニケーションを潤滑にするAIの使い方のほうが、すぐに効果が得られるんです。
