AIを使った作品作り、鍵を握るのは「演出家」
藤井:DLEでは、具体的にどのようにAIを取り入れているのでしょうか。
小野:当社にはフラッシュアニメーションを制作するスタジオと、AI特化型の「OBETA AI STUDIO」があります。後者では、映像はAIで作っていますが、シナリオや企画、声の芝居は人間が担い、キャラクターデザインも一度手描きしたものをAIで清書するフローを採用しています。
藤井:それにより、コストや時間はどれくらい短縮できるものなのですか。
小野:よく「AIでどれだけ削減できたか」と質問されますが、まだそれほど変化はないのが正直なところです。むしろ、フラッシュアニメーションのほうが、制作コストが安い場合もある。
ただ、これまで『秘密結社 鷹の爪』のようなプリミティブな絵しか制作できなかったのが、昨年10月に放送した『小泉八雲のKWAIDANの世界』では、AIで実写やセルルックのような美麗なアニメーションに挑戦できました。今までチャレンジできなかったフィールドに手が届くようになった点で、メリットが大きいです。もし実写映像を従来のやり方で制作していたら、10倍~20倍のコストがかかっていたと思います。
藤井:クオリティはどう担保しているのですか。
小野:OBETA AI STUDIOのメンバーに、AIで映像を量産してきた人間は一人もいません。集めたのは、実写の現場で演出経験のある人材ばかりです。
AIはプロンプトさえ間違えなければ、使い手が初心者でも経験を積んだ人でも、ぱっと見ではアウトプットが似通ってしまいます。差が出るのは、出来上がった映像を「良し」とするか「否」とするかの感性です。たとえば、ロングショットの次にクローズアップの画を入れるといった映像のセオリーを分かっているか。演出を分かった人間がAIを使ったほうが、違和感のない映像が出来上がります。
藤井:アニメーターというより「演出家」ということですね。
小野:そうです。当社はこの20年、シナリオと演出を何より大事にしてきました。演出ができる人間がAIを手にすると、これまで届かなかった作画の細かさや映像の美しさまで実現できる。そうなると、ほぼ死角がなくなるんです。
藤井:海外企業のほうが映像へのAI活用に積極的な印象もありますが、温度差はありますか。
小野:海外は日本のアニメをAIに一生懸命学習させ、似たものを作ろうとしています。しかし、見落とされがちなのは、日本のコンテンツの凄みは絵や動きではなく「キャラクター」にあるということ。
背景には、週刊マンガの存在があります。高いクオリティの作品が毎週、無数の作家から生まれつづける。毎週トライ・アンド・エラーを重ね、読者の反応を受けてさらにキャラクターが磨かれているため、アニメ化の前段階ですでに完成されているのです。
藤井:そのキャラクターの進化さえ、いずれAIが学習するのではないでしょうか。
小野:正直、「今の段階では」まだ難しい。私自身、シナリオをAIで書けないかとずっと試していますが、いまだに書けません。情報を編集してそれらしいものは作れても、人がハッとするときめきや驚きは生めない。AIは身体性を持たないからです。
わかりやすい例だと、AIは「壁ドン」という情報は分かっても、それが人にどう感じられるかまでは理解できていない。AGIが実現すればトップクリエイター級のAIが登場する可能性はありますが、それはまだ先の話でしょう。
