前編はこちら
AIでベテランと若手の差はむしろ縮まっている?
藤井(編集部):これから社会人になる方々の多くは、いわゆる「AIネイティブ」といえますよね。AIのアウトプットを疑わずに、「正解」として受け入れてしまうリスクがあるのではないでしょうか。
Momentor 坂井風太氏(以下、坂井):もちろん、そのリスクはあります。ただ、「AIの間違ったアウトプットをそのまま提出してきつく怒られた」というのも、重要な直接経験です。
前編でもお話ししましたが、今は各社がAIプロダクトを売ろうとしている市場だからこそ、AIの良い点が強調され、過大評価されている側面があります。しかし、AIのアウトプットにも限界はある。私が新入社員なら、AIに頼りきりにならず、生態学的情報である直接経験をいかに積むかで勝負します。特定のカテゴリーのお客様と毎週商談して関係値を構築したり、相手の微細な感情の動きを読み取って提案の良し悪しを判断したりできるスキルが、優位性につながるからです。
こうした個人の強みは、何十年も前からいわれてきました。しかし、特定のカテゴリーに詳しかったとしても、それをロジカルに説明する手段があまりなかったのかもしれません。今なら、直接経験を踏まえて誰でもAIと壁打ちができます。AIによって、多くの直接経験を持つ人のレバレッジがかかりやすくなったのです。
藤井:それは、ベテランと若手との差が開いてしまうということでしょうか。
坂井:実はそういうわけでもありません。当然、20年、30年と特定の領域で直接経験を積んできた人のほうが、詳しいことは多いです。その分、バイアスもあるかもしれません。一方で、若手がある領域に特化して直接経験を多く積み、リーダーシップをとることもできます。つまり、直接経験の差は"頑張れば埋められる"部分でもある、ということです。
今までは、経営文脈でうまくロジカルに説明できる人が出世しやすい傾向にありました。話しやすい人のほうが、上司も出世を提案しやすいですから。ところが、今まで評価されてきた能力は、AIに代替され得るものとなりつつあります。実際、新入社員がAIで作った企画書は構造化されていますよね。そう考えると、むしろ差はかなり圧縮されたのではないでしょうか。
藤井:たとえば、黙々と企画書と向き合ったり、プロダクトを開発したりすることが好きな方もいれば、飲み会のようにコミュニケーションを得意とする方もいます。作業をAIが代替できるのであれば、人と会って直接経験を積める後者のタイプのほうが有利になるようにも思えます。
坂井:たしかにあり得ます。一定の専門性しかもたない方は、そのままAIエージェントに代替されるかもしれません。極端な話ですが、並みの専門性しかなくて感じの悪い人を雇う必要性は減っていくでしょう。当然、色んな人の居場所を作ることは非常に重要ですが、その一方で「感じが良い人」の価値が大きく上がっていると感じます。たとえば、どんな会議でもにこやかな人がいてくれるとありがたいですよね。そのような人のほうが、生態学的情報も拾いやすいです。
藤井:人柄が重視される時代、ということですね。
坂井:そうですね。明らかにネガティブなことをいう人が一人いるだけで、その場の雰囲気は悪くなります。「ブリリアント・ジャーク(優秀だけど嫌なヤツ)問題」です。この一人によって、他の人の全パフォーマンスが30%ずつ下がっていたとしたら、その人の代わりにAIエージェントを採用して業務を代替してもらったほうがメリットは大きいといえます。
