号令だけでは動かない、トップメッセージの使い方
生成AIが急速に注目を集め始めた2024年、日立ソリューションズは4月にAIトランスフォーメーション推進本部を新設し、「DX by AX toward SX」というスローガンを掲げた。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進にAX(AIトランスフォーメーション)を中核に据え、持続可能な社会(SX)に貢献するという方針だ。
その後、2024年秋には、プログラム開発に携わるエンジニアだけでなく、バックオフィス業務を担う社員も含めた全社員がAIを日常的に使う組織にするという方針が経営陣から打ち出された。
「われわれも、それはちょっと無理かな、と最初は言っていました」。当時、この取り組みを推進していた経営企画本部 研究企画部 部長の宮崎邦彦氏はそう振り返る。同社は5,000人超の社員を擁するSIerであり、多数の技術者が在籍しているため、開発現場ではAIへの関心はもともと高い。だが経営陣が見ていたのは、開発業務にとどまらないAIのインパクトだった。バックオフィス業務の効率化にも大きな効果が見込めるという判断から、全社員活用という踏み込んだメッセージが発信された経緯がある。
現場の受け止め方は一様ではなかった。「AIへの期待感を示す方もいましたし、入力したデータがAIの学習に利用されてしまうのではないかと不安を感じる方もいました」と宮崎氏は明かす。当時の社内は、ポジティブな反応とネガティブな反応が入り混じっていた。
日立ソリューションズがこの後に取った選択は、このメッセージを具体的な「参加できる場」に落とし込むことだった。生成AIとAIエージェント活用のアイデアコンテストは、2025年4月にこの流れの一環として始まった。
エントリーの間口を意図的に下げる
コンテストは上期・下期に分けて実施し、日立ソリューションズグループから上期で約1,100件、下期で約700件、年間で1,800件以上のアイデアが集まった。個人・チームのいずれでも参加可能で、日立ソリューションズ単体だけを見ても3人に1人が何らかの形でアイデアを提出した計算になる。「事務局的には予想以上に盛り上がって、非常に良かった」と宮崎氏は言う。当初の目標は上期で300~400件程度だったといい、実際にはその2~3倍の応募が集まったことになる。
アイデアコンテストの審査プロセス [画像クリックで拡大] (出典)日立ソリューションズ
この応募数を生んだ理由の一つは、エントリーシートのハードルを極力下げたことだ。実際にAIを開発していなくとも、アイデア段階でエントリーできるようにし、数行程度の提案でも受け付けた。「とにかくたくさんの人にまずはAIを触ってもらい、気軽に手を挙げてもらいたいという大きな思いを持っていました」と宮崎氏は説明する。完成度の高い提案を求めれば、応募できる社員は実装力のある一部の層に限られてしまう。
募集テーマも、バックオフィス業務の改善などを対象とする「一般カテゴリー」と、SE職や技術者を主な対象とする「開発カテゴリー」の2つに分け、幅広い社員が参加しやすい仕組みとした。比較的多かったのは品質保証に関わる提案だったという。一方で、AIで音楽を作って職場の雰囲気を和ませるといった、業務改善の枠を超えたユニークな提案も生まれた。
