各社が“PoC止まり”の中、なぜ本格運用を実現できたのか?
──本セッションのテーマは「失敗しないプロジェクトの進め方」です。JCBでは、「加盟店デスク」の問い合わせ対応にAIを実装されました。まず、加盟店デスクとはどのような顧客接点なのでしょうか。
JCB コミュニケーション推進部 岡田和永氏(以下、岡田):加盟店デスクとは、JCBカードをお持ちのお客様ではなく、小売店や飲食店、サービス業、ECサイトなど加盟店向けの問い合わせ窓口です。たとえば、飲食店でお客様のJCBカードが反応しないといった場合に、加盟店デスクにご連絡をいただきます。月間約1万件にのぼる問い合わせに対して、約30名で対応しています。
今回、この加盟店デスクに対話型音声AIである「アイブリー」を導入しました。一次応対をAIが行い、必要に応じて有人オペレーターに自動で振り分ける体制です。
JCB システム本部 福山武彦氏(以下、福山):2025年度、当社では電話基盤の刷新プロジェクトが走り出していました。コールセンターのうち合計2,000席が対象と大規模であり、長期にわたる取り組みです。このプロジェクトが本格的に動き始めると、新しいチャレンジが難しくなることが目に見えていました。つまり、いま何もしなければ、あと2年間はコールセンターにAIを導入できない状態だったのです。
コールセンターは人材育成が大変な上に採用も難しく、従業員の年齢層が徐々に上がっています。だからこそ、早く体制を安定させなければならないと急いでいました。前倒しでできることは何か。そう考えたとき、AIオペレーターに賭けることに決めました。
──数ある問い合わせ窓口の中で、なぜ最初に加盟店デスクを選定されたのですか。
福山:当社はカード会社であり、電話応対でも個人情報を取り扱います。しかし、セキュリティの面で、個人情報とAIは相性が良いとはいえません。コールセンターにAIを導入しようとしても、コンプライアンス部門の承認を得ることが難しい現実があります。
一方で、加盟店デスクはカード番号を取り扱わない窓口です。加えて、FAQをベースに完結的に応対できる部分が比較的多い。そのため、AIの導入がしやすく、かつ効果が出るだろうと予想できました。
──取り組みにおいて、何を重視して進められてきましたか。
福山:私の経験上、今回のような取り組みは、ビジネス部門単体で進めるとうまくいきません。加盟店デスクを統括する部門に、AIやITのスキルを持つ人材が少ないことが要因の一つです。だからこそ、我々はシステム部門とビジネス部門が協力して伴走する体制を選択しました。
岡田:2025年10月にIVRyと契約し、最初に取り組んだことが音声認識Q&Aの設計です。まず、100個以上のFAQを登録し、加盟店デスクのメンバーに手伝ってもらいながら、架電テストを行いました。その内容を踏まえ、AIがどう理解しているのかを確認してチューニングし、修正してまた架電テストをする。この作業を何度も繰り返しました。
それと同時に、個人情報保護やセキュリティの課題を乗り越える必要もありました。この課題には、個人情報などを自動的に伏せ字にするIVRyのマスキング機能や、日本国内でのLLM処理の実現によって対応を進められました。
そして2026年2月、加盟店デスク全体のリソースの約15%にあたる札幌・福岡2拠点・2回線で本格運用に漕ぎつけました。実際のお客様の発話をAIがどう認識するか注意深くモニタリングし、さらにチューニングを重ねた上で、5月に東京と大阪でもリリースし、現在は全国展開に至っています。
