ツールに強い若手、問いの質で勝負するベテラン。差がつく「使いこなしの深さ」
栗原:「ベテランと若手の共創」というテーマにスポットを当てていきます。AI時代において、40〜60代のベテラン層がAIを武器にすることの強みとはどこにあるのでしょうか。
桑原:私は、ベテランこそがAI時代に大きなアドバンテージを持っていると考えています。もちろん操作スピードや最新トレンドを追う点では若手の方が優位です。
しかし、AIから引き出す価値を決めるのは、何を聞くかという「問いの質」です。ビジネス経験が浅い若手は今あるプロセスを正しいものとして愚直に実行しがちですが、経験を持つベテランであれば「このステップは不要ではないか」と本質的なボトルネックに当たりをつけられます。

今のAIは操作習得のハードルが非常に下がっています。だからこそ、課題設定とビジネスへの落とし込みという「経験値の差」がそのままベテランの強みになります。若者は“使い始めの速さ”、ベテランは“使いこなしの深さ・問いの質”で勝負できるのです。
栗原:若手にトレンドを学ぶ「リバースメンタリング」に加え、ベテランの勘所を若手に渡す“逆リバースメンタリング”とも言える双方向の学び合いが重要になるわけですね。
桑原:まさにそのとおりです。ここで重要なのが、過去の成功体験を一度捨てて学び直す「アンラーン(Unlearn)」の姿勢です。これができずに頑固になってしまうベテランは、職場から孤立していくでしょう。
一方で、ベテランから若手へ還元できる最大の武器は「共感力」と「判断軸」です。ベテランが本質を突くプロンプトを投げる姿を見て、若手は「こういう問いの投げかけが重要なんだ」と気づき、ビジネスの暗黙知を自分の糧にできます。
この「共創」のあり方をコンパクトに表現するなら、お互いが正面から向き合う「殴り合い」です。ベテランは若手に素直に教わり、逆に若手の思考が浅いと感じた時にはハッキリと言う。そうやって互いに意見をぶつけ合いながら、本質的な事業価値を作っていくことこそが、AI時代のあるべき共創の姿です。
現場主導の開発から、組織的内製化へのロードマップ
栗原:企業が具体的にどのようにAXを成功させていくべきか、その実践的なロードマップと最も重要な役割を担うべきレイヤーについてお伺いします。
桑原:目指すべきゴールは、業務オペレーションそのものをAI前提で再設計し、やりたくない仕事をAIに任せて自ら減らしていく状態を作ることです。最初から完璧な全体像を描こうとせず、段階的なアプローチを取るべきです。
- フェーズ1:現場主導で「小さく作ってみる」ことから始め、小さなアプリで成功体験を積む。
- フェーズ2:その実績を経営トップにぶつけ、AIの有用性を正しく認知させて全社的な推進力を得る。
- フェーズ3:適切な統制の枠組みの中に開発を吸い上げ、ガバナンスを保ちながら「組織的な内製化」へと移行する。
そして、この変革の主役になるべきは、現場のリアルな課題感を身をもって理解している「ミドルマネージャー」です。
AIが代替していくのは、日々の業務に紐づく泥臭い実務のレイヤーです。したがって、変革の最大の原動力は、「自分たちの組織が本質的に果たすべきミッションとは何か」を直視し、不要な業務を徹底的に減らしていくんだというミドル層の強い「パッション(覚悟)」に他なりません。
彼らが他部門や経営層と積極的なネットワークを築き、点としての成功事例を全社的な動きへと伝播させていく。この強固な連携体制が構築されたとき、日本の大企業のAXは必ず成功し、組織の生産性と市場価値は飛躍的に高まると信じています。
栗原:AIの本質的な破壊力を信じ、変革へ挑むための重要な視座をたくさんいただきました。桑原さん、本日はありがとうございました。
