IT企業でもAI推進は楽じゃない ぶつかった3つの壁
──AI推進の中でハードルもあったのではないでしょうか。
ハヤカワ五味(メルカリ):当社はIT企業なので「AI推進は楽だったでしょう」といわれることが多いですが、実はそうでもありませんでした。ITリテラシーの高さも人によります。また、過去にAIトレンドが社内で起こったものの、盛り上がりきらなかった例があるため、「今回も一時的なものではないか」と考える人もいました。
その上で、私が特に最初の1年間で取り組んだのは、次の「3つの壁」を乗り越えることです。
技術理解の壁:「AIは嘘をつく」「技術的に役立たない」「使いこなせない」といった、技術への理解不足
組織の壁:「やっても意味がない」「直近の評価に直結しないから使わなくていい」「なぜやるのかわからない」といった、目標管理や組織文化との不整合
人の壁:「AIは怖い」「私には必要ない」といった、心理的な抵抗や不安
──最も乗り越えるのが難しかった壁はどれですか。
ハヤカワ五味(メルカリ):「人の壁」ですね。技術的なことやDXは、合理性を示せば使ってもらえると思われがちですが、実際はそうではありません。どれだけ合理的であっても、心理的に受け付けられないものは避けられてしまいます。
「なんとなく嫌だ」と思われる部分にコミュニケーションを取っていくのが、非常に大変でした。トレンドへの懐疑心や、AIに対する「わからないから怖い」というのが、社員の主な反応でした。
──その心理的なハードルを、どのように乗り越えたのでしょうか。
ハヤカワ五味(メルカリ):これは一つのきっかけではなく線の話だと思っています。1ヵ月でやろうとしたら無理だったでしょう。時間を使って段階的に知識をインプットし、それぞれが「わかっていく」という体験を積み重ねる必要がありました。
人はAIに対して、100%の正解を求めてしまう傾向があります。人間だって嘘をつくし間違える。だからAIも間違う。それをどう使うかが話のポイントだということを含めて、AIに対する期待値のコントロールも非常に重要だったと思います。
──現場の社員の方々が、特に積極的になったタイミングはありましたか。
ハヤカワ五味(メルカリ):状況が大きく変わったのは今年の春頃。ChatGPTによるDeepResearchのリリースをはじめ、GeminiやClaudeなど、各社でモデルのアップデートが大幅に行われたタイミングがありました。
それ以前は、業務に使えても、使い手側のリテラシーがかなり求められる印象でした。しかし、アップデートによって実務で使いやすいレベルになったと思います。それまで半年以上かけて知識をインプットしてきたこともあり、「これ使えるじゃん!」と一気に社内の空気が変わりました。
──年末年始の長期休暇も、大きなきっかけになったと伺いました。
ハヤカワ五味(メルカリ):非常に大きかったです。AIは「Nice-to-have(あると良い)」で、個人のインセンティブとして「今すぐ使わなきゃ」とはなりにくい。使わなくても直近の評価が下がるわけではないからです。なかなか必要に迫られないのが、AI活用の難しいところです。
それが、年末年始やゴールデンウィーク、お盆休みなどは「そういえば社内で話題になったから使ってみるか」と試してみて、良さを体験する機会となりやすかったようです。AIリーダーの方には、長期休暇前に経営層も含めてAI活用のノウハウをインプットすることをおすすめします。「使いたい」という気持ちを高めたまま休暇に入ってもらうと、年始から急激に活用が進むと思います。年に数回のチャンスなので、ぜひトライしていただきたいですね。
