博報堂のAI戦略のコアは「同質化しない価値創造のためのAI活用」
フォーラムの総括として登壇した、博報堂DYホールディングスおよび博報堂 執行役員 兼 博報堂テクノロジーズ 代表取締役社長の中村氏は、全セッションを振り返りつつ、博報堂が目指すAI戦略の全容を語った。中村氏は、AIエージェントとの対話がもたらす最大の価値は、生活者と企業の間に「同質化しない新しい絆」を生み出すことにあると定義した。
AIによる業務の自動化・効率化(オートメーション)は前提としつつ、博報堂が真に目指すのは、AIによって人間の創造性を最大化する「オーグメンテーション(創造性の拡張)」であり、これを「AI-POWERED CREATIVITY」と表現した。
「AI-POWERED CREATIVITY」を実現するために、最初にやることは「AI時代の生活者への理解」だ。すでに同社にある研究機関が様々な角度から、AI時代の生活者像を探っているという。
次のステップは、新しい生活者発想プラットフォームの構築だ。「生活者発想プラットフォームが目指すことは、人の知恵にテクノロジーを掛け算して創造的な『別解』を生むこと」(中村氏)だという。さらに中村氏は、このプラットフォームが持つ4つの主要機能を紹介した。


1.生活者視点での発想機能
これは20万人の生活者意識データと、2億のWeb行動データを基に「エビデンス・ベースドなバーチャル生活者」を生成し、プランナーが彼らと常時対話できる環境を提供するものだ。これにより、いつでも生活者の反応をシミュレーションし、独りよがりではない発想を得ることが可能になる。

2.市場視点での発想機能
AIによる数千市場の常時モニタリングと博報堂の洞察を掛け合わせ、業界のイシューや変化の兆しを捉え、市場を動かすアイデアの起点を作る。

3.メディア/生活者インターフェース視点での発想機能
生活者接点データやメディア在庫情報を基に、具体的なコミュニケーション設計図をAIと共に描き、アイデアをアクションへと変換する。

4.効果を予測する機能
仮想市場を再現し、施策の実行前に効果予測と改善点をAIと共に検討することで、成功確度を高める。

さらに中村氏は、AI活用が進む中で多くの企業が最適解を求めた結果、似通ったサービスやコミュニケーションになってしまう懸念があると指摘。それを避けるためには、自分とは異なる視点(子供、親、未来など)を、AIを通じて意図的に取り入れ、発想を転換させる必要がある。「なるほど」といった予定調和な答えではなく、「まさか!」という驚きのある別解を導き出すことこそが、クリエイティビティの本質であるとした。
発想だけでなく実行フェーズにおいても、戦略、クリエイティブ、メディア、CRMなど各領域に特化した「AI-POWERED Marketing Solutions」を網羅的に展開している。生活者発想プラットフォームでユニークなアイデア(別解)を生み出し、特化型AIソリューションでそれを精度高く実行に移す。この「発想」と「実行」をAIで高度に連携させる体制により、博報堂はクライアント企業の変革を支援していく。

中村氏は最後に改めて「博報堂はAIによる効率化はもちろんやるが、その先の創造性までAIをしっかりと高めていく」と強調。AIエージェント時代において、技術はコモディティ化しても、そこから生まれる「対話」と「創造性」こそが企業の独自の価値となる。博報堂のAI戦略は、テクノロジーを人間中心に据え直し、生活者と企業の同質化しない新しい関係性をデザインしようとする強い意志表明であった。

