法務AIで何が変わったのか──議論の「本質」ではなく「時間軸」を変えた
法務の付加価値を考える際、根橋氏は「複雑性」と「影響範囲」という2つの軸を提示した。複雑性とは、論点の難易度や数、事実関係の特殊性、ステークホルダー間の利害対立の強度などを指す。影響範囲とは、地理的・時間的な広がりに加え、金銭的損害からレピュテーション、行政処分までのリスクの幅を含む。
この枠組みで業務をマッピングすると、一般的なNDA(秘密保持契約)や典型的な契約審査は両軸とも限定的だが、契約書のひな形作成は影響範囲が広くなり、大規模M&Aになれば両軸ともに高まる。
では、AIは何を変えたのか。根橋氏の見解は明確だ。「AIは議論の本質を変えたんじゃなくて、時間軸を変えたというのが私の考えです」。
「業務を効率化して制度設計・仕組み設計にリソースを投下すべき」という議論は、AI登場以前から存在していたし、方向性もAI前後で変わっていない。変わったのは時間軸だ。従来、こうした課題は「いつかはやるべきこと」と思いつつも、目の前の大量の契約書や法律相談の処理が「目隠し」となっていた。しかしAIがその書類の山を素早く処理するようになると、視界が開けて「先にあった課題」が否応なく目に入ってくる。
「やるべきことは変わらない。ただ、もう逃げられない」と根橋氏は断言する。時間管理の観点でいえば、「重要だが緊急ではない」と先送りしていた課題が、AIによって「重要かつ緊急」に変わってしまった。これがAIの起こした変化の本質だという。
