「まずい」と感じた夜──ChatGPT3.5登場翌朝のルールメーキング
押久保:DeNAさんのAIへの取り組みは、2016年からと伺っています。当時から現在まで、どのような歩みをたどってきたのでしょうか。
加茂:2016年当時は、生成AIが登場する前の機械学習・深層学習の時代でした。一般の方にはまだ馴染みが薄かった頃ですが、DeNAでは横浜DeNAベイスターズのチーム強化にAIをいち早く活用したり、モバゲーで対話AIの実験を行ったりしていました。AIブームが何度か訪れる中で、その都度波に乗りながら実験的な取り組みを積み重ねてきた。そういった歴史の延長線上に、2022年11月のChatGPT3.5の登場という転換点がありました。

押久保:ChatGPT3.5の登場が御社でターニングポイントになったわけですね。
加茂:忘れられない夜でした。私は常日頃遅くまで起きているもので、午前2時ごろSNSのトラフィックが急増しているのに気づいたんです。ChatGPT3.5が公開され「これはまずい」と直感しました。生成AIがついに一般層に浸透し始めた、いわゆるキャズムを超えたと感じまして、そのまま寝ずに翌朝、セキュリティ・コンプライアンス部門を巻き込んでルールメーキングを始めました。
押久保:「まずい」という感覚はどこから来たのでしょう。
加茂:エンジニアとして経験を積む中で、似た感覚を何度か覚えてきました。Adobe Flashのように、ある技術がある日突然失われていく瞬間があるんですよね。AIのこの潮流も止められないと感じました。そうであれば、一刻も早く会社へのインパクトを最大化できる形で動く必要がある。その判断として最初にやるべきはルールメーキングだったんです。早めに整備することで、アーリーアダプターの従業員も、後から使い始めるレイトマジョリティの方々も、安全なガードレールの中でAIを活用できるようになりました。
「AIオールイン」を支えた準備。土壌と経営コミットメント
押久保:2025年2月の「AIオールイン」宣言(※1)に至るまでに、どのような準備があったのでしょうか。
加茂:実は宣言の半年以上前から、南場さんと対話を続けていました。南場はよく西海岸のスタートアップを訪問していて、AIの最新技術にも常に触れている。話してみると、いわゆる日本の伝統的な経営者の方々とはやはり少し違うと感じていまして、「これからAIに投資をしていかなくてはいけない」という強い覚悟がありました。その覚悟が見えていたので、2025年2月のイベントで何を発信するか、夏頃から一緒に設計していたんです。
押久保:「高速道路」を作れた背景に、DeNAならではの土台があったということでしょうか。
加茂:そうです。AIオールイン以前から、オンプレミスのサーバーからクラウドへシフトする「クラウドシフト」が進んでいましたし、IT統制や関連部署との連携体制も整っていました。何もない状態から高速道路は作れないんですよね。カルチャーや組織としての耐性が土台にあったから、短期間でルール整備を進めらました。
宣言後は、Slackに「AIオールイン」チャンネルを作り、南場さんのチャンネルより参加人数が多いくらい全従業員が集まる場になっています。そこで日夜AI活用の情報がやり取りされている。「AIをやらなければいけない」ではなく、「やらないとどうしようもない」という状況を作っていくことが大事だと思っていて、そのための外堀を一つひとつ埋めていきました。「AI活用100本ノック」もその一環です(※2)。社内から集まった約200件の事例から重複や類似を除いて選り抜いた100事例を、毎日1件ずつXで発信しました
