DARSが可視化するAI活用レベル。単一タスクを超える視座
押久保:現場の意識や役割の変化を、どのように把握されているのでしょうか。
加茂:最初は把握できていませんでした。全社でAIを使い始めると、当然ながらバラつきが出てくる。誰が何をどこまで使えているのか、組織としての全体像が見えない。その課題感から設計したのがDARS(DeNA AI Readiness Score)です(※3)。個人のAI活用レベルを1~5の段階で、組織レベルも合わせて測定することで、今自分たちがどこにいるかを把握できる「地図」を作ろうとしました。

押久保:スコアを見ていく中で、気づいたことはありましたか。
加茂:「単一タスクをAIでこなす」だけでは、DARSのレベルとしては低い方なんですよ、ということです。議事録の自動作成や、レポート作成時間の短縮——それ自体はもちろん価値があります。ただ、AIの力を本当に引き出すためには、業務プロセスそのものを変える視座が必要で、そこにまだ多くの人が到達できていない実態が可視化されてきました。
そのためには、自分の業務を俯瞰してマネジメントできる能力が問われます。ステークホルダーは誰でボトルネックはどこか。AIを軸に業務を再設計できれば、個々のインパクトと組織全体の活用度が掛け算になっていく。DARSはその「次のレベル」を示す指標でもあります。
もう一つ重要なのは、DARSが推進だけでなく守りのスコアでもある点です。セキュリティや著作権といった法的リテラシーも評価に含まれているので、どの部署が進んでいてどこが遅れているかを組織単位で把握しながら、打つ手を変えられるようになっています。
ガバナンスと推進の両立。有機的に動くガードレールの設計
押久保:推進と守りのバランスはどのように保っているのでしょうか。
加茂:本来は別々の組織が担うべきで、健全な対立構造があるのが理想です。ただ現状は、スピードとのトレードオフがある。今は私が両方を取りまとめながら、その分だけ情報収集に力を入れています。
情報収集というのは、「今、何が使えるか」だけでなく、「3ヵ月後・半年後に何が起きるか」を予測できる水準まで持っておくことが大切です。そのためにSNSだけに頼るのは危険で、業界団体や政府、技術企業との直接の対話で一次情報を取りに行く。エコーチェンバーの外に出る習慣を意識しています。
押久保:現場が「これをやっていいか」を判断する仕組みはどうなっているんですか。
加茂:NotebookLMにAIポリシーをまとめて、誰でも問い合わせられるようにしています。一般的な質問の約8割はこれでカバーできます。残りの2割、「昨日の夜中に出た新しいモデルは使っていいか」という問い合わせには即時で判断を返して、その結果をまたNotebookLMに追加していく。ガードレール自体が有機的にアップデートされる仕組みです。
生成AIの世界は昨日の常識が今日通用しない。だからこそ、固定したルールブックではなく、常に書き換えられる設計にしておくことが大事です。ガードレールは作って終わりではなく、育てていくものだと思っています。
