日本の強みは「アニミズム」と「ハードウェア」にあり──分散型AIの実装
岡本:SLMが普及することで、どのような変化が起こるのでしょうか。
小澤:まずは、業界特化型のAIモデルが増えると思います。医療や製造、あるいはコンビニに特化したAIモデルが登場するでしょう。たとえば、コンビニの中でも特定の店舗だけに特化したAIモデルが出てきても、おもしろいかもしれません。こうした動きは、一神教的な価値観では生まれにくく、日本にとって重要な価値戦略になると見ています。
岡本:一神教的ではない、とはどういうことでしょう。
小澤:「ChatGPTがあればいい」「Geminiがあればいい」と、単に「AGI(人工汎用知能)」だけを信じる世界観ではなく、もっと混沌とした世界観があるという意味です。たとえば、自動販売機にSLMが搭載されたらどうでしょうか。日本には約390万台の自販機がありますが、それが喋り出して「疲れていそうだから、このドリンクはどうですか?」と提案したり、災害時には情報もくれたりする。SLMなのでインターネットにも接続せずに済み、レスポンスも速いですよね。これは世界への輸出チャンスにもなり得るものです。
岡本:ハードウェアとAIの融合ですね。
小澤:日本はハードウェアが非常に多い国です。たとえば、商業施設の案内スタッフが持っているだけになっているタブレット端末、駅の券売機などにSLMが入れば劇的に変わります。これはあらゆるものに命が宿る「アニミズム」、つまり八百万の神を信じるような考え方がある日本だからこそできるAIの社会実装です。一神教的な価値観ではなく、本質的なAIの社会実装において、ここから10年間の日本は他国よりも先行できると思っています。
岡本:日本の強みが活きてくるわけですね。
小澤:言い方を変えれば、日本はこれまで「AIエージェント時代の準備」をしてきたと考えています。「失われた30年」は、準備のための30年だったと言えるでしょう。日本は高度経済成長期にITがなくとも素晴らしい社会システムを作ってしまったため、中途半端なIT化しかできなかった。しかし、そのお陰で隅々まで人手によるオペレーショナルエクセレンスが残っている。
岡本:100%の質を求める、日本的な現場力のことですね。
小澤:そうです。諸外国は70点や80点のクオリティで満足しますが、日本人は99%だったとしても1%のミスを許さない。東京には、ミシュランの星をもっている店舗が仏・パリの1.5倍あるように、物事を突き詰める国民性が日本人にはあります。ジョブディスクリプション(職務記述書)に則った仕事しかしない欧米型の人材はAIエージェントに置き換えられやすいですが、調整力に長けて複数の職種を横断してきた日本企業の人材は、生成AIが学習しきれない「メタ的な知識」を豊富にもっているのです。そうした状況下、技術がようやく追いついてきた。これを信じ、AI戦略を推進していくべきです。
