日本が「まだまだ勝てる」フィジカルAIの産業構造
講演後半では、マルチモーダルとフィジカルAIの進化にも触れた。「マルチモーダルの技術の進化は、感動するほど凄まじい。動画も音声も、人間かAIか判別が難しいレベルになっています」。日本のアニメやエンターテインメント産業にとっては、欠かせないピースが揃ってきたとも指摘した。
フィジカルAIについては、今年1月のCESでの展示を見て「中国とアメリカに置いていかれる」と感じた人も多いかもしれないと前置きしつつ、「諦めるのは全然早い」と述べた。
生成AIの領域とは異なりフィジカルAIは「領域・用途単位」で発展する産業構造を持つ。ここでは日本の強みが生きる。「ハードとソフトのすり合わせが強く、プロダクトとサービスのきめ細かさは世界ダントツだと思います。職人芸や匠の技という暗黙知を形式知化してデジタル化し、学習させてモデルを作る。フィジカルAIで産業全体をAIネイティブ化する——そういうスケールの大きい試合をやろうじゃないですか」と南場氏は主張した。

DeNA自身も、「ポケポケ」「Pococha」「横浜DeNAベイスターズ」など、デジタルとフィジカルの両輪で多様な事業をポートフォリオとして持つ。その根底にあるのは「人が組織を使う」遠心力経営の思想だ。
志を持つ個人やチームに対して、資金・ノウハウ・販売チャネル・顧客基盤を用意する。AIで無数のビジネスチャンスがある今、この方針の重要性は増していると南場氏は語った。
AIエージェントが人間に発注する時代。私たちは何を議論すべきか
講演の最後、南場氏は人とAIの共存に関して本質的な問いを提示した。
AGIの到来については、Anthropic CEOのダリオ・アモデイ氏もDeepMind創業者のデミス・ハサビス氏も「必ず来る」と言いながら、「社会の準備が追いついていない」と発言していると指摘。
直近では最高裁判所がAIを発明者として認めない判決を出しつつも、「今後AIによる発明が増える時代に備えた、新しい制度が必要かもしれない」と言及したと紹介した。
また「rentahuman.ai」というサイトも紹介。AIが人間にタスクを発注し、人間がAIから依頼を受けて働く。そんな試みが現実に行われ始めているという。
「そのうち、AIから『人間は自転車を漕いで発電してください』などと、依頼を受けるかもしれないけど、私、毎朝AIと喧嘩してるんですから、そんなもんですよね」と笑いを交えながらも、こうした未来を当事者として議論していく必要性を強調した。
「この未来は忍び寄るのではなく、押し寄せてきます。必ず来るとわかっている未来であれば、私たちもとことん一緒に議論して向き合っていきたい」。今後も現実と向き合う強い覚悟を示し、南場氏は講演を締めくくった。
