AIが同僚になる時代。サイロ化の加速という、新たな壁
押久保:もうひとつの要素とは、何ですか?
野口:先ほどのメモリにも関係しますが、「処理できる情報量の拡大」です。これまでのAIは、その記憶容量が小さかったため、質問のたびに必要なデータだけを外部から探す方式でした。そうすると探し間違いが起きやすく、出力が不安定になる欠点がありました。
現在は、AIが一度に処理できる情報量が100万トークン規模へと劇的に拡大しています。これにより、外に探しに行くのではなく、最初から「ルール・スキル・メモリ」のすべてをAIに直接流し込むことが可能になりました。
これはある種の大発明です。バラバラの断片情報を検索させるのではなく、洗練された「仕事の作法(ルール・スキル)」と「膨大な記憶(メモリ)」をセットにして、巨大なコンテキストとしてAIに渡せるようになったのが今だと思います。
柴山:私も、ここ数ヵ月の劇的な進化をユーザーとして体感しています。同時に、これを3,000人規模のエンタープライズ企業でどう実装するかを考えると、また別の課題が見えてきます。それは、サイロ化の加速です。
先ほど野口さんが説明された二つの要素を満たし、AIエージェントが高速に機能して人の何百倍もの生産性を上げるようになったとき、最初の指示や入力、そして稼働するAIエージェントがバラバラだと、組織のサイロ化のように分断されたデータが上がってくる可能性もありそうです。今すでに問題視されている組織や業務のサイロ化が、AI活用においても障壁になってしまうわけです。生産性が数百倍なだけに、下手するとサイロ化も数百倍複雑化してしまうリスクも考えています。
AIエージェントの業務範囲を設計。自由と統制のバランス
柴山:さらにエンタープライズ領域では、AIエージェントの自由度が高すぎることがリスクにもなります。たとえば、CLI(コマンドラインインターフェース)ベースで自由に動くエージェントは、高い生産性を生む一方で、APIキーの管理ミスや不適切なデータアクセスによって、取り返しのつかない事故を招く危険性もあります。
野口:権限管理が極めて重要になるわけですね。
柴山:はい。SaaSが普及したのは、単に便利だからだけでなく、業務の範囲を限定することで、標準化されたプロセスと品質を担保してきたからです。現在のAIエージェントには、このような限定が弱く、何でもできてしまうがゆえに、3,000人が勝手に動けば組織はカオスに陥ります。
押久保:自由度と統制のバランスをどう取るか、ということですよね。先日参加したAIのイベントでも、ガードレールをどう設定するかが実用化の肝だと強調されていました。
柴山:AIがデータを生む仕組みそのものを設計し、誰がどこまでアクセスしていいのかを、システムとして提供することが必要です。この悩みを、1年後ではなく3ヵ月以内に解消しなければならない。それほどのスピード感で、壁に立ち向かうことが迫られていると思います。

